近藤啓太郎著「海人舟」(第35回 (1956年上半期) 芥川賞受賞作)を読む

 近藤啓太郎のものは初めて読む。以下内容や感想などを述べる。

 

 

 

内容

 主人公は22歳の海人、勇。勇は同じ船便場で顔を合わせる年上で28歳のナギに恋をし、結婚まで考えたがナギにそのことを言うと、「村一番の海人になったら結婚する」といわれてしまう。勇はそうなろうと熱中し、疲弊し、まるで機械のように自分の体が動くようになる。他の人がひきあげるのに勇はひきあげようとしない。ナギははらはらして勇から目が離せない。ナギと勇がこの後どうなるか、追っていくことが話の中心である。

 

感想

 細かい描写はあったと思う。が、それぞれ注目しようという風には思わなかった。理由は幾らかある。一つは見慣れぬ単語が多い、他にはどこかの方言が入ってくるのだがどこを舞台にしたかは分からない。そういうあまり馴染みない言葉に注目して読んでいくことがこのような小説の醍醐味なのだと思うけれどもついていけず。他にはある程度どういう展開になっていくか、予想できたため。ナギが「村一番の漁師になったら……」といえばそのような村一番になろうという方向に向かって何らかの行動をとるとは大体思う。しかしどういう展開になるか予想できたからといってそれが悪いという風には思わない。

 また読めば違った感想をえられると思う。

 

親しみのない言葉

 尋ー両手を左右に伸ばしたときの、指先から指先までの長さを基準にし、1尋は5尺すなわち約1.515メートル、ないし6尺すなわち約1.816メートル。縄・釣り糸の長さや水深に用い、水深の場合は6尺とされる。 (goo辞書参照)

 

 でぼー作中では鮑のこと。けれどもネットでは調べても出てこず。本などには書いてあるのだと思う。

 

 覚えー作中では(鮑が住むような)穴の事。

 

 ぼらー話中では「洞穴」のこと。

 

   

   書いてあることに注意して読んでいったという訳ではないので感想と、馴染みのない単語のみを載せた。

 

選評 

 銓衡委員は宇野浩二、瀧井孝作、佐藤春夫、川端康成、舟橋聖一、石川達三、丹羽文雄、井上靖、中村光夫である。

 

 丹羽文雄はつぎのようにいう。

 

「海人舟」は、海と人間が渾然と一体になっている。日本画家である作者のデッサンの習性は、小説においても、ねつこさと正確さをしめしている。海人の間にはいって生活している作者の強味が発揮された。新風というわけにはいかないが、健康な後味のよさである。永年小説を書いていて常に気にかかることは「童心」ということである。初心忘るべからずであるが、この小説の中から私はそれを強く感じた。 (458頁)

 

 中村光夫はつぎのようにいう。

 

 「海人舟」は近藤啓太郎氏の多年の努力がようやく描写の技巧で規格に達する作品を生んだというだけで、型にはまった空疎な物語という印象をうけました。正直に云うと七篇のなかで一番小説臭すぎて詰らない小説と思っていたので、この授賞は僕には意外でした。 (460頁) 

 

参考 

 近藤啓太郎、「海人舟」 (「芥川賞全集 第五巻」より)、文藝春秋、1982年