向井敏著「虹をつくる男たち コマーシャルの30年」を読む

 本書はサントリー学芸賞というものをとった本のようだ。この賞はあまり知らないが、歴代のものをずらっと見ると面白そうな本もあるので気乗りすればこの賞をとったものを読んでみたいと思っている。

 

 このごろは自分はテレビを見なくなっているので、テレビ上でどういうcmがあるのか、ということには疎い。しかし動画などにもcmはついてくるので、いやでも見なければならない。どういったcmが昔あったのかというのをみていきたくて手にした。

 この本はエッセイ式に書かれており、中盤までが1タイトルにつき1頁で完結するもの。後半からは、2頁、3頁にわたるものもある。いずれももちろんリアルタイムで見たことのないcmだった。たぶん知っている人にとってはなんらかの思い出があるのだろう。本を読んだあと、動画で残っているものは確認した。印象にのこったところなどを書きつらねていきたい。

 

 

著者

 向井敏(むかい・さとし) 

 1930年大阪生まれ。大阪大学仏文学科卒。1961年電通入社、1982年退社。 (本著の著者を紹介している頁を参照。)

 

 

 

テレビcm第一号

 1953年8月28日に日本テレビ放送網が開局する。精工舎という時計店がテレビcm第一号。1953年の8月28日正午に放送される予定だったが放送のミスで画面はちらつき、音は出ず、数秒で中止ということになった。

 このcmは時報でもあるのだが、精工舎は二十年間このcm形式を変えなかった。 (3頁を参照)

  

cmを見た感想

 鳥が時計の針をまわしていて面白い。

 

 

 

田辺製薬、「アスパラ」 

 「アスパラ、アスパラ、アスッパラ、アースーパーラで生き抜こう」というcm。のち「生き抜こう」は誇大であるとして厚生省からクレームがつき、「やり抜こう」に変えられた。 (10頁を参照)

 

 動画では曲だけのものなら「アスパラで生き抜こう」というものもあった。

 

 cmを見た感想

 スライドの切り替わりが印象的。

 

 

 

大橋巨泉「はっぱふみふみ」(パイロット万年筆)

 意味のない言葉というのは面白い、どこか惹かれるところがある。タモリの番組にもそんな作品はある。

 

 1969年のcm。子供たちの流行語になった。 (21頁を参照)

 

cmを見た感想

 意味がありそうだけどない言葉が出てくる。伝わる言葉も出てきており、商品名ーパイロットエリートsという語は言っている。

 

 

 

「オーモーレツ」と「ビューティフル」

 1969年は「はっぱふみふみ」以外にもcmからの流行語がうまれた。「オーモーレツ」がそれだ。東京オリンピックから万博にいたる間の一種異常なモーレツ礼さんの世相をなぞなえるのにかっこうの言葉として、あるいは逆にそうした世相風俗をひやかすことばとして社会批評などでしきりにとりあげられた。(22頁を参照)

 

 1970年には富士ゼロックスの「モーレツからビューティフル」という字幕が流れるcmがある。これはモーレツ一本槍のゆとりのない生活態度への反省が一般化しはじめた時期の社会的表情をテーマ化した。 (23頁を参照)

 

cmを見た感想

 丸善石油「ダッシュ100」切り替えが多い印象。パワフルな感じがした。

 富士ゼロックス なんのcmかわからないというかんじもした。最後の字幕の出方が印象的。

 

 

 

トヨタ「長い道」

 1976年春、三十秒ワンカット、トヨタの交通安全キャンペーンのcm。 (38頁を参照)

 

cmを見た感想

 音がこわい。時間のわりに動きが少ない、ゆっくり歩く歩行者にひきつけられた。

 

 

 

なぜフランス

 なぜ日本ではなくフランスをよくcmで使うのかということが書かれた部分があった。以下は引用。

 身近な現実がどんなものか、ひとは身にしみて知っている。道いっぱいにあふれてのろのろと動く車、寝るのがせいいっぱいのあわれな2DK、あわただしくて心せいてばかりいる日常。

 CMのなかで、快適に車を走らせたり、豪華な邸に住まわせたり、心豊かに一日を送らせたりもしても、いっこうに説得力がない。商品そのものまでうさんくさく見えてくる。それにひきかえ、海外はひとの体験からはやはり遠い。フランスといえどもあんなにいいことずくめのはずはないと思っても、身近でないだけについ心を許してしまう、商品も生き生きして見える。 (43頁)

  小説などではとくに、見知らぬ場所のでてくるものは読んでいて想像できないという意味で、敬遠したくなることもあるが、それがより実生活に迫ったコマーシャル(そうでないものもあるが)というものになると、知っている場所はある程度想像ができてどんなものか、実情を知っているため(見知らぬ場所のほうがいいかもしれない)と思うこともたしかにある。

 

 

 

フードサンプルとコマーシャル

 このタイトルは本からそのまま。フードサンプルとコマーシャルには似通ったところがあるということを言っている文がある。金指正三という方が以下のようにいっていたようだ。

 「ビフテキで、店のひとが、これはいい肉を使っているんだと、マ、自慢の料理で値段も高い。ところが、わるいけど、サンプル屋にとっちゃ、料理の材料はカンケイないんですな。むこうサンがいくらいい肉を使ったって、形の簡単なものは、こちらは作りやすいんです」 (74頁)

 

 

 

「君のひとみは10000ボルト」

 資生堂のcm。山口百恵が歌っているのはこの本を読む前にも動画で見たことがあった。資生堂の過去のcmとはずいぶんちがうようだ。以下引用。

いうまでもなく、資生堂は化粧品業界の王者。売上高で全体のおよそ三分の一を占める。広告規模ももちろん業界最大だが、そのせいか、広告表現にはどこか王者のゆとりがあって、ここ数年のキャッチフレーズを見ても、「海岸通りのブドウ色」「ひかってるね、あのこ」「ゆれる、まなざし」「時間よ止まれ」と、山の手風とでもいうか、ちょっと気取ったものばかり。それがいきなり、「10000ボルト」とあられもないパンチをかけてこようとは思いもしなかった。反則じゃないか、なんて思ってしまうわけだ。 (130頁)

 

cmを見た感想

 メロディをすでに覚えていた状態でcmを見た。

 「鳶色の瞳に~」というのが口ずさみやすい。

 

 万華鏡風、カラーボール、最後のビリヤードの玉、化粧品の種類が豊富に出てくるところなど、多くの欲望を駆り立てるものだとおもった。しかし服装はこざっぱりとしていて、あとにずんと残るわけではない。印象には残る。

 

 

 

参考

今回読んだもの 

向井敏、「虹をつくる男たち コマーシャルの30年」、文藝春秋、1983年

 

虹をつくる男たち―コマーシャルの30年 (1983年)

虹をつくる男たち―コマーシャルの30年 (1983年)

 

 

 

cmを動画で確認したもの

精工舎、1953年

田辺製薬、「アスパラ」、1964年

パイロット万年筆、「エリートs」、1969年

丸善石油、「ダッシュ100」、1969年

富士ゼロックス、「モーレツからビューティフルへ」、1970年

トヨタ、「長い道」、1976年

資生堂、「君のひとみは10000ボルト」、1978年