芥川龍之介の作品を読み漁る——「彼 第二」、「蜃気楼——或いは「続海のほとり」」

「彼 第二」

「彼」に出てくる彼は第三中学校から付き合いがあり文学や社会科学の話が好きだったが病気になった途端興味がなくなった……という人物だったが、「彼 第二」に出てくる今度の彼は愛蘭土人である英字新聞の記者をやっている。ロンドンへ行ったり日本へ来たり、日本では「いずれは日本もアメリカ化するね。僕は時々日本よりもフランスに住もうかと思う」と言った後、志那に行ったり…と思えば今度はロシアへ行ってみたいといったり、といろいろな国を回っているという印象。"I detest Bernard Shaw"(「私はバーナード・ショーが嫌い」)と彼が言った文が2度出てくる。それの言わんとすることはわからないが、どこか異国風の不思議な作品だなと思った。彼は日本文学も愛読しているようで谷崎潤一郎の「悪魔」という小説(谷崎の官能美を追求した初期の作品。女に愚弄されることに快感を覚え、鼻汁をかんだ恋人のハンカチをなめる箇所がある。)のことを世界一汚いことを書いた小説だろうと言っているが、それを谷崎本人に話すと「世界一ならば何でもいい」と無造作に言ったというところがかっこ書きでさりげなく書いてあり面白かった。谷崎ってどんな人だったんだろう。

 

「蜃気楼——或いは「続海のほとり」」

大正十五年の秋、芥川は鵠沼に滞在しており仲間や妻と、不気味な体験をした。砂の上に水葬した死骸の上に付けていたような札を拾ったり、芥川がトラック自動車の運転手と話している夢を見て顔だけ三四年前にみた婦人記者で体は男だったりと。副題に「続海のほとり」とあるだけあって「海のほとり」と雰囲気が同じようなところがあった。まず海岸に行ったというところは似ており、「海のほとり」では幽霊の話が出てきてそれがいるのかどうかということも本作では例えば芥川の妻が何か青いものをみた、或いは芥川がネクタイピンだと思っていたものが本当は巻煙草だったなど、錯覚的なものをみたという点で似ているところがあると思う……一番特徴的だと思ったのは芥川の海にいる人物につけるニックネームだ。「海のほとり」では嫣然(にっこり笑う)としていたから嫣然、ジンゲリッヒ(ドイツ語で肉感的)だからジンゲジと呼び、本作品でもカップルのことを新時代と名付け、ユーモアがあるなと思った。

 

参考 芥川龍之介、1991年、『芥川龍之介全集6』、ちくま文庫