浅草寺に行く——芥川龍之介の「浅草公園」を読んで——

 松戸からの帰り、数十キロとそこまで離れていないので引き続き自転車で浅草寺に行くことに。「浅草公園」は約二か月ほど前に読んだのだがとても興味深い作品で引っかかりがあった。この作品の中心は或少年が父親がいないことに気づき、浅草寺周辺を歩き回るというもの。シーンが良く切り替わり、いろんな店が出てくるという印象。途中、少年の不安感を表現するような描写がある。一~七十八まで短い文で構成されている。

 

 それでちくまの芥川龍之介全集(六)を片手に浅草寺を回る。再現とまではいかないけど、一部照らし合わせていけたらいいと思った。

 まずは「浅草公園」の一とふってある仁王門へ。これは宝蔵門とも呼ばれるのだが、仁王像が安置されているので仁王門とも呼ばれるようだ。

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 浅草の仁王門の中に吊った、火のともらない大提灯。提灯は次第に上へあがり、雑踏した仲店を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失せない。門の前に飛びかう無数の鳩。 (「浅草公園」・一)

 提灯の火はともっていない。大きさ的に難しいのだろうか。鳩は門の周辺にはいる所もあったが前は人が多いこともありあまりいなかった。

 で、その次「浅草公園」では雷門へ移動している。仁王門から仲見世ずっと通って雷門へゆく。

 

 雷門から縦に見た仲店。正面にはるかに仁王門が見える。樹木は皆枯れ木ばかり。 (「浅草公園」・二)

 

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 携帯のカメラをだいぶズームした。はるかに仁王門(宝蔵門)が見える。
 それから「浅草公園」では少年は玩具屋へ父親は帽子屋へ行ったりしている。玩具屋へ行き玩具の猿を見ていた少年は父親とはぐれてしまう。少年はその後いろいろな店を回る——目金屋、造花屋、煙草屋、射撃屋……

 実際歩いてみると、玩具屋は多い感じがした。しかし猿の玩具は見つけられず。

 その後、「浅草公園」では劇場、映画館、カッフェ、メリヤス屋を通ったりしている。

 

「急げ。急げ。いつ何時死ぬかも知れない。」 (「浅草公園」・五十一)

 少年の不安を表現しているのだろうか。こんな文も出てくる。

 「浅草公園」ではその後ポストや理髪店、セセッション風の病院、コンクリイトの塀、常盤木の下のベンチなどが続いて出てくる。

 

 

「浅草公園」・六十九では観音堂(本堂)が出てくる。

 

次は手水鉢を目指す。

 

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 斜めに上から見下ろした、大きい長方形の手水鉢。柄杓が何本も浮かんだ水には火かげもちらちら映っている。そこへまた映って来る、憔悴し切った少年の顔。 (「浅草公園」・七十一)

 手水鉢は他にもいくつかあったが長方形のものがたまたま二天門にあったのでこの写真をとった。水は無かった。参考までに仁王門傍の手水鉢は長方形ではなかったが火かげはあった。

 少年の顔が憔悴しきって映っていたのか……悲しい。

 

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 それから石灯籠。本堂(観音堂)から左に折れた薬師堂の石灯籠は大きい。「浅草公園」・七十二から最後までの間、石灯籠が結構出てくる。

 大きい石灯籠の下部。少年はそこに腰をおろし、両手に顔を隠して泣きはじめる。 (「浅草公園」・七十二)

 少年は石灯籠に腰かけ、泣いている。そして七十六で巡査に手を引かれて向こうへ歩いていく。

 

 最後に再び仁王門へ。

 

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 前の仁王門の大提灯。大提灯は次第に上へあがり、前のように仲店を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失せない。 (「浅草公園」・七十八)

 昼間とは違い仁王像はライトアップされていた。迫力がある。芥川が提灯の下部に注目したのは面白い。確かに目がゆく大きさかもしれない。

 

 以上、「浅草公園」を読みながら歩いていった。芥川の時代とは違うだろうし建物も変わっているのかもしれないけど、こんな感じじゃないんだろうかと思いながら写真をとっていった。いつもは浅草寺に来た時はぷらぷら歩いていたのだが本をみながらでも楽しめた。

 

参考

芥川龍之介、1991年、『芥川龍之介全集六』、ちくま文庫