小島信夫著「アメリカン・スクール」(第32回 (1954年下半期) 芥川賞受賞作)を読む

 第32回の芥川賞受賞作は前に読んだ「プールサイド小景」と今回読んだ「アメリカン・スクール」の2作があるようだ。以下話の内容や感想などを書いていく。

 

 

 

話の内容

 時代は敗戦後。ある県にはアメリカン・スクールがあってそこに英語教師たちが訪れることになる。英語を使いたくないと思う伊佐という人物と英語を積極的に使おうとする山田と英語はできるが嫌う気持ちもわかるミチ子が中心に書かれている。

 

感想

 あまり読み易い作品とは言えないと思う。片仮名が混じっているのもあるし、文が細かく区切ってある感じがしたので注意が必要だと思った。

 アメリカン・スクールに行くまでの尺は長いなと思う、待ち合わせから着くまで。6粁あるのだが。そこに行くまでに靴擦れがあったり、外国人が乗るジープが来たり、伊佐が(隣りになりたくない)と言って乗るのを憚ったり、ミチ子がハイ・ヒールから運動靴を履いたり、伊佐がハダシになったり……。その行くまでに出てくる用語が後々も出てきているので行くまでのシーンが文章全体で重要になっているなと思った。

カタカナが多い

 この作品は外国人がでているから敢えて片仮名を多く出したのだろうか? 多いという印象がある。外国人が話すところは片仮名表記になっているのだが、それはひらがなや漢字表記にしても逆に違和感があるし、片仮名でいいのだろう。けれども、そうじゃないところも片仮名が出ている。特に前半部。後半はそう多くもないという印象だ。本文中に出ている片仮名をざっと集めると、アク、レッキ、ハダシ、ヒゲ、キゼン、フロシキ、……などがある。キゼン、ハダシなどは別に漢字でもいいと思うが、外国人が出てくるという事もあり、敢えて片仮名にするという工夫をしたのだろう。反対に距離を表すときには、「米」という漢字で「メートル」、「粁」で「キロ」とふってある。ここは片仮名表記でもいいと思ったのだが、米——アメリカっぽさを出そうとしたのか。 

 あまり見慣れない変わった感じの文になっているなと思った。

 

ハダシとハイ・ヒールと靴

 ハイヒールはアメリカン・スクールに向かう一同の中のミチ子がアメリカン・スクールにつく途中まで、履いているのだが、向かう途中では脱ぐのをやめ運動靴に履き替える。が、ついてからはアメリカン・スクールを見るとそこでは贅沢とは言えないが広大な敷地をもつスクールを見て、ハイ・ヒールを履くことを楽しみにしている。ミチ子は此処に住む米人よりも教養の点では遥かに上だと考えているが、「私たちというにんげんがここには入れないほど」貧しいと思っているためだ。けれどもその後も、アメリカン・スクールにいるエミリーという女性が美しいと思うと運動靴に履き替えたりしている。この話の最後の方では伊佐がミチ子の求めた黒い箸をエミリーに渡した時はハイ・ヒールを履いていたが、ハイ・ヒールを滑らせた。

 ハダシになったのは伊佐である.アメリカン・スクールまで行く途中、靴擦れになってしまい、靴からハダシになったのだ。その後、「エミリー所有」と書いた靴をアメリカン・スクールでは履いている。エミリーという女性からもらったものだ。

 

 以上、足に関連するものが話中でよくでるのでまとめた。

 この作品は、最後の場面でミチ子が箸を伊佐に求めていたと分かる。この作品では箸は日本風だというアイテムとして使われている。その箸の様に、道具が何か暗示しているのだと考えてみるのも悪くはないかもしれない。足に関すものが何かそれぞれ暗示しているとしたら、ハイ・ヒールは片仮名なので洋風な感じがした、また話中ではミエ子がそれを楽しむようなことが書かれていたので、走りやすい運動靴よりも余裕がある履物のイメージで、運動靴は何か動きやすいのだが、「エミリー所有」と書いてあったのもあり、支配的なイメージ、ハダシというのは素朴なイメージだと受け取った。ものが何を暗示しているかという事は何とでも言えると思うが、こんな感じだろうと思うことを書いた。

 

選評

 (以下「芥川賞全集 第五巻」参照)

 

 銓衡委員は「プールサイド小景」の時も書いたが、宇野浩二、佐藤春夫、瀧井孝作、石川達三、川端康成、丹羽文雄、舟橋聖一、井上靖である。

 宇野浩二は以下のようにいう。「『アメリカン・スクール』は、ちょいと特異な題材を克明に書いて面白いところもあり、独得なところもあるけれど、書き方がゴタゴタしている上に、出てくる人物にも、場面にも、不鮮明なところや独り画点のようなところもあるので、私は、それほど高く買えないのである。」

 瀧井孝作は以下のようにいう。「「アメリカン・スクール」は、読んでは面白いが、読後に残る感じは淡い。」

 

参考

 小島信夫著、「アメリカン・スクール」 (「芥川賞全集 第五巻」より)、文藝春秋、1982年