ギッシングの作品を読む

 ジョージ・ギッシング(1857-1903)の作品をいくつか読んだ。以下話の内容や印象にのこったところなどを書いていく。

 

「蜘蛛の巣のある家」('The house of cobwebs')

 家への愛情や出会った人との友情について主に書かれている。

 この話の主人公は、本を三か月以内に書き上げなければならないゴールドソープ(Goldthorpe)という男で借家で貧乏暮らしをしている。しかし、お金が足らず、より安い家を探さなければならない。ロンドンへ行き、ゴールドソープはぼろくて、蜘蛛の巣だらけの家を発見する。その家からはHome, Sweet Homeがコンサーティーナ(アコーディオン族)によって演奏されているのが聞こえる。その家の主人であるスパイサーさん(Mr. Spicer)に出会い、できるだけ安く部屋を貸してくれるよう懇願する。家の主人であるスパイサーさんは本が好きで、いろいろな作品を知っていた。ゴールドソープと意気投合し、親しく、良い関係が続いた。しだいにスパイサーさんはゴールドソープに色々な話をし始める。スペンサーさんはかつて化学者の見習いや助手であったこと。この蜘蛛の巣のある家は死んだ叔父から受け継いだものだが、土地争いがあり、一年のみスペンサーさんのものであること。スペンサーさんがいつか借家ではない完全に自分が所有できる家を夢見ていること。

 話はスペンサーさんは庭の園芸に夢中になりはじめ、また、ゴールドソープは本の原稿を書き、それがどうなっていくのか、ゴールドソープの生活はどのようになるのかということなどが続く。

 

Home, Sweet Homeについて 

 蜘蛛の巣だらけの家からコンサーティーナで弾いたHome, Sweet Homeが聞えてきた。これはアメリカの俳優であり劇作家でもあるジョン・ハワード・ペイン(John Howard Payne (1791-1852))が翻案した1823年のClari; or the Maid of Milanというオペラの中の曲である。南北戦争の時にも歌われていた。(ウィキを参照) 

 

 

話に出てきた作家について

 スペンサーさんは父親が貧しいながらも少しの本を持っていて、それを戸棚にしまっている。また、スペンサーさんは本に詳しくて、ゴールドソープの貧乏さを例えるときにサミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson、1709-1784)やトマス・チャタートン(Thomas Chatterton、1752-1770)の名前を出していた。主人公のゴールドソープという名前だがイギリスの詩人でゴールド・スミス(Oliver Goldsmith、1728 -1774)という人がおり、偶然名前が似ていると気づくシーンがあった。

 

 題名の一部になっている蜘蛛の巣は、最初ゴールドソープがこの家に来た時から窓や家の通路、階段などいたるところに蜘蛛の巣があったのだが、スパイサーさんが「この家の本当の所有者は蜘蛛たちだ」と言って邪険に扱わない様子が書かれていてよかった。

 

 

 

 

 

「節操ある父親」('The scrupulous father')

 娘と節操のある父がそれぞれ見知らぬ男に対してどのように対応するのかという話である。

 休みの期間の最後のほうで、宿の一室では中年の男ホイストン氏(Mr. Whiston)とその娘のローズ(Rose)は静かに食事をしている。そこにやかましく、うるさい、「おはようございます。」と言ってやってきた赤い髪の男ルーファス(Rufus( 'rufus'はラテン語で「赤」を意味する))がやってくる。ルーファスはあとから来た大きな農夫とビールの話をし、父と娘の二人は出て行くことにした。ホイストン氏はさきほどのやかましい人間がビールの話をしていたのをよく思っておらず、水を飲みつつ不平を言っている。ホイストン氏は製図工で決してお金持ちではないながらも厳格で、良心をもっており、娘のローズに対しても厳しい、そして見知らぬ人に対しては安全ではないと考えている。ローズは花をその一室に置き忘れたことに気づいたが、父はそこに戻ることをよく思っていないだろうと考え、戻らず何も言わないでいる。二人は、住む場所に電車で戻ろうとプラットフォームで待っているとき、ルーファスがローズの忘れていた花をもってきてくれた。だが、ホイストン氏はそれを見ていない。ローズは持ってきてくれたことをとても喜んだ。その後も偶然ローズがルーファスに電車で会う機会があり、ルーファスは今度は乗客と煙草の話をしている。そしてルーファスとローズは父のいない間、名前や住所の交換をする。父親はルーファスを嫌っている一方ローズはルーファスに心好かれており、今までの父親との真面目な暮らしぶりはよかったのかなどを問うている。

 父親はぐったりしている。なにがあったのか…

 

 ルーファスがローズに忘れた花を持ってきたところのちょっとした描写がよかった。(以下訳-kankeijowbone)

'He had the flowers in his hand, their stems carefully protected by a piece of paper.'(p.92,93)

「彼は手に花を持っていた。花の茎は紙切れで大切に守られていた。」

 

 それ以前には花の紙切れは出てこなかったが、ここでは出てきている。ルーファスが包んだのだろうか。気遣いを感じた。

 

 ローズはルーファスが忘れた花を届けたことを知っているのだが、ローズの父親は知らないということもあってルーファスに対しての態度や、呼び方の温度差が面白かった。

 

 

 

 

 

「クリストファーソン」('Christopherson')

 所有している本をめぐっての話である。 

 主人公の私(I)がロンドンの古本屋で本を買った。それに対して、みすぼらしいが教養のありそうな60代くらいの男であるクリストファーソン(Christopherson)が話しかけてきて、その本はもともとクリストファーソンの本だったということを言ってきた。

 私がクリストファーソンと話をすると、もともと大きな書庫をもっていたのだが、仕事で失敗してしまい、いまは少しの本しかもっていないようだ(といってもそれは本人が「少し」と言っていただけで、私がクリストファーソンの本を見に行くと少しではなく、多くあった)。また、最近妻の体調が悪く、二人そろって妻の親戚であるキーティングさん(Mrs. Keeting)のもっているノーフォーク(Norfork)の空気のいい家に移ることになっており、そのつもりでいたのだが、キーティングさんがクリストファーソンのもつ本を自分の家に移すことがとても嫌で断られてしまう。クリストファーソンは落ち込み、今まで妻の稼いだお金で本を買っていたことがあってそれを懺悔し…。

 

 このようなかんじであった。

 

 何を犠牲とするのかということが出てきていてそれは主に三つあった。キーティングさんが本を持ち込まれるのが嫌だと言っていたため処分してキーティングさんの家に行き、〈本を犠牲にする〉か、今の家に住み続け〈キーティングさんの持つ家に住んでいいということを犠牲にする〉のか、それからキーティングさんに本のせいで断られてしまい、クリストファーソンは妻が行きたいだろうと思っていたキーティングさんのもとに行けず、それのせいで妻の病状がますます悪化した思うのだが、〈妻を犠牲にする〉のか。

 

 

 クリストファーソンの妻を心配する様子が印象にのこった。

'He worries her, poor man, sitting there and asking her every two minutes how she feels.'

「彼は弱っている彼女のそばに座り、二分毎に体調を聞いた。」(p.62)

 

'I uttered a few words of encouragement, but they had the opposite effect to that designed. 

'Don't tell me that,' he moaned, half resentfully. 

'She's dying--she's dying--say what they will, I know it.''(p.62)

「私は励ましの言葉をいくつかかけたがそれらは思っていたものと反対の結果となった。

「そんなことはいわないでくれ。」彼は怒り混じりに嘆いた。

「彼女は死にそうだ、死にそうなんだ、何と言おうとも、私はそう思う。」」 

 

 ここでは彼女の病状は急に悪化しはじめたなどというわけではないが、クリストファーソンはすごく心配している。引用した部分では取り乱している様子が見て取れる。そのあともクリストファーソンは妻がこうなったのは自分が悪いのだ、ということを必要以上に思いこむ。

 

 

 

 三作品ともそれぞれ進み方がゆっくりしていていいとおもった。ギッシングの作品はまたほかのも読みたい。

 

 

調べた語句の一部(weblioや電子辞書などより)

「蜘蛛の巣のある家」('The house of cobwebs')

wherewith (疑問詞)何で・何によって

hedgerow 生垣をなす低木列

buff 淡黄褐色

stucco 化粧しっくい

marauder ごろつき 

unimposing 目立たない cf. conspicuous・imposing 目立つ

open air 野外 

〈植物〉 jerusalem artichoke キクイモ artichoke チョウセンアザミ

whilst while 

next of kin 近親者

knavish 悪党のような

torrid やきこげた

abode 住居

 

「節操ある父親」('The scrupulous father')

brew (ビールなどを)醸造する cf. blow 風が吹く brow 眉

speculation 思索、考察

abominable いとうべき

vex 苦しめる、うるさがらせる

alight 降り立つ、舞い降りる cf. aloof 離れて、遠ざかって

refreshment-room 軽食堂

martyrdom 苦痛(殉教という意味もある)

respectabilities 因習的儀礼

perturbation 心の動揺、不安

tyrannous 横暴な、専制君主的な

 

「クリストファーソン」('Christopherson')

vista 見通し、展望

flyleaf 書物の巻頭

woebegone 悲しげな

encumber 邪魔する、妨げる

henceforth 今後

hoard 秘蔵

infernal 黄泉の国の、地獄のような、悪魔のような cf. diabolic 悪魔のような、魔性の

not far to seek 明白

preliminary 序文の、仮の

fainting fit 失神

splutter ブツブツ音をたてる、せきこんでゴホゴホ言う

beckon 手招く

yonder あそこに

stint 切り詰める ex('stint'には下線を引いた). You shall know everything --for years I have lived on the earnings of her labour. Worse than that, I have starved and stinted her to buy books.(p.65)

 

 

参考

三作品ともGeorge Gissing, The house of cobwebs(Edinburgh: Constable's Miscellany, 1931)に収録されている。