キャサリン・マンスフィールドの作品を読む

 キャサリン・マンスフィールド(1888-1923)の作品をいくつか読んだ。

 以下それぞれ内容などを書いていく。

 

「一杯の紅茶」('A Cup of Tea')

 お金持ちと美しさについて書かれている。

 主人公はローズマリー・フェル(Rosemary Fell)といって、容姿は美しいとはすこし違うのだがお金は持っている。高価な買い物をしたいと思った後、お金がなく、やつれているスミス(Smith)に出会い、「紅茶一杯分のお金をくれませんか。」と言われて、フェルの家に連れて行って紅茶をあげるということがぞくぞくする感じがしたため、そうすることにした。スミスはそのことを恐れおおくびくびくしている(身分的なこともあるのだろう)一方、フェルはそのことに勝利感をおぼえている、そしてスミスに対してそんなにびくびくしないでということを言っている。そこにフェルの夫であるフィリップ(Philip)が来て「スミスはとても美しかった」ということを言い、フェルは憤るのだが...

 

 お金はないが美しさのあるスミスの呼ばれ方がさまざまあったが、'creature'と呼ばれることもあった。'a little battered creature'(p.347)「少しやつれた人間」や'the poor little creature'(p.350)「かわいそうな小さな人間」、 'a light, frail creature'(p.350)「小さな、もろい人間」 など。スミスに使われていた'creature'はお金持ちのローズマリー・フェルに対して、お金のないスミスを身分的なことで蔑んでいるのだと思った。'creature'が使われていたのはほかにも、フィリップがスミスを褒めた後、フェルがフィリップに'You absurd creature!'(p.352) 「おかしな人」というところがある。ここでは軽蔑してそう言っているのだと思った。 

 'creature'は人間以外の生き物や動物に使われることが多いイメージがあったため、人間に使うことはあまり見たことがなく特徴的だと思った。調べるとほかに「不思議な動物」、「産物」として使われることもあるとわかった。'crature'と似た語句として'animal'(ここで挙げるのは'little animals'として使われていた。)も人間に使われる場合があるのを思い出した。前にもほかの一編については書いたが、シャーウッド・アンダーソンの「ワインズバーグ・オハイオ」(Sherwood Anderson, Winesburg, Ohio)の'Sophistication'という章には男女が抱き合うが、気恥ずかしさを感じて、その気恥ずかしさを和らげようとしている場面がある。そこで'animal'('little animals')は使われる。(以下の訳-kankeijowbone, 'little animals'(「小動物」)に下線を引いた。)

'They laughed and began to pull and haul at each other. In some way chastened and purified by the mood they had been in, they became, not man and woman, not boy and girl, but excited little animals.'(Sherwood Anderson, Winesburg, Ohio, p.242)

「彼らは笑い、お互いに強く引っ張りはじめた。ある意味で、彼らの雰囲気のために垢ぬけてなく純粋になって、二人は男と女でなく、また少年と少女でなく、興奮した小動物になっていった。」

 

 'creature'や'animal'などの用語が出てきたら、今後もどういう意味なのか調べるなどし、気をつけて見ていきたい。

 

 フェルにもてなされるスミスはおそれ多くて、泣いたりするのだが、その表現が大きく面白かった。 

 

 フェルとスミスが同じ机に着き、スミスがサンドイッチを食べたり、紅茶を飲んでいるとき、フェルが一緒にご飯を食べようとしないシーンがあって気になった。

'As for herself she didn't eat; she smoked and looked away tactfully so that the other should not be shy.'

「彼女(フェル)は食べようとはしなかった。彼女は煙草をふかし、もうひとり(スミス)がためらわないように(思い切って食事を取ることができるように)気を遣って目をそらした。」

 

 とくに〈なぜ目を合わし一緒に食べるとためらうと思うのか〉ということが気になった。多分スミスはフェルと一緒に食べて、目が合うと相手の家に居るためもあり、食べ方のマナー、ペースなどを相手に合わせなくてはならならず、気を遣ってしまい、それで人目を気にせず満足に食べられず、ためらうと思うのではないか、また見られてだと食事がしにくくなるとフェルが察したのではないかと思った。

 

 

 

 

 

「蠅」('The fly')

 会話に死んだ息子について出てきて思い出し、近くにいた蠅がその死と何らかの関係をもっている話である。

 ウッドフィールドさん(Mr. Woodfifield)が彼の友達のボス(Boss)の部屋にいる。ボスはさまざまな装飾や家具を自慢している。だが、ウッドフィールドさんの目は部屋に飾ってある写真の男の子(六年前に亡くなったボスの息子)から離れず、ボスは気を引くことができていない。ウッドフィールドさんは先週ベルギーに娘たちが息子の墓を見に行ったとき、ボスの息子の墓も見て、それはきちんとしていたことなどを言う。その話が出ると、ボスはショックを受け、使いに誰にも会いたくないことを言い部屋を閉め、息子が死んでからの六年はなんと早いのか、などを思っている。そんなとき蠅がインク入れに落ちたのを見つけ助けてほしそうだったため、ペンで吸い取り紙に移した。だが、思い付きでボスはインクを蠅の上に何度も落とし…

 

 蠅が必死に自らの体からインクの染みを拭い取ろうとするシーンがあって、そこがよかった。なぜ蠅の上にインクを落とし、蠅を苦しめるようなことをしたのか、ということはこの話についての他のサイトや論文も色々見たが、様々あった。この作品が出たのが1922年だが当時作者のマンスフィールド(1923年に亡くなった)自身が結核に苦しめられておりそれと必死にインクを取ろうとする蠅が重なっている、であったり、ショックを受けているボスと蠅の苦難とを重ねあわせているという意見であったり。

 人間とそれに対して小さな蠅を出しているのは何らかの意図はあるのだろう。自分はうまく答えが見つからず、単にひどいと思った。しかしひどいといっても、そんなに単純なことではなくそこから生命の必死さなどを伝えようとしているのでは、そのこと自体はひどくはないのではとも思い、結局のところわからなかった。読者にどうなったのか委ねる作品だと思う。

 

 

 

 

 

「園遊会」('The garden-party')

 園遊会と事故が起こる作品である。

 主人公はローラ(Laura)で、天気もよく、園遊会に適した日であった。ローラや兄弟、母親、職工たちと園遊会の準備などを進めている。しかし、近くで事故が起きた。荷馬者屋の乗っていた馬がトラクターを見てしりごみして、その間に荷物車屋は投げとばされ頭を打ち、死んでしまった。ローラはそれを聞き園遊会を中止にすることを家族などに提案したが楽団が来ていて、それを止めるわけにはいかない、この庭でその事件が起きたわけではないなどといった理由で受け入れてもらえない。園遊会は行われ、終わるのだが…

 

 園遊会の準備に当たって、職工が大テントを組み立てるなどをするのをどこにしようか迷っている。そのときに職工がカラカ(karaka、ニュージーランドの月桂樹)の木の所にすればいいのではと提案するのだが、ローラはカラカの木を気に入っており大テントによってカラカの木が隠れてしまうのではないかと心配している。そのあとの一人の職工の取った行動をローラが見て、よかった、と思うのだが、そこのシーンがいいと思った。以下である。

'They must. Already the men had shouldered their staves and were making for the place. Only the tall fellow was left. He bent down, pinched a sprig of lavender, put his thumb and forefinger to his nose and snuffed up the smell. When Laura saw that gesture she forgot all about the Karakas in her wonder at him caring for things like that-caring for the smell of lavender. How many men that she knew would have done such a thing. Oh, how extraordinarily nice workmen were, she thought. ' (p.239)

「[前の文を受けて]そう(大テントでカラカが隠れてしまう)にちがいない。すでに職工はたる板を運び、大テントの準備をしていた。ひとりの背の高い男のみがその場所を離れた。彼は屈みラベンダーの枝を親指と人差し指でつまみ、鼻の方へもってきて匂いをかいだ。ローラがその気を遣う様子を見た時、大テントでカラカが隠れてしまうのではないかという心配を忘れた。彼女の知っている人のどのくらいがそのような気遣いをしただろうか。ああ、なんてすばらしい職工だったのだろうか、と彼女は思った。」

 

 先ほども書いたが、この文の前でローラが大テントを建てるとカラカが隠れてしまうのではないか、という心配の後で、ここでは背の高い職工がラベンダーの花のかおりを気にかけるくらい繊細であるということを言っている。ではここには大テントを建てなかったのか、どこに大テントを建てたのか、ということは読み取れなかった。

 

調べた語句の一部(weblioや電子辞書などより)

「一杯の紅茶」('A Cup of Tea')

lilac ライラック、モクセイ科

stumpy ずんぐりした

cherub(神に仕えて玉座を支えたり、守護神となったりする天上の存在)

languid ものうげな、弱弱しい

vile 下劣な、堕落した

 

「蠅」('The fly')

helm 指導的(支配的)地位

treacle あまったるいもの

squat ずんぐりした(しゃがむ)

sacrilege 神聖を汚すこと tamper 下手に手を加える ex. 'It's sacrilege to tamper with stuff like this.'(p.354)

chubby-hole こじんまりして気持ちのいい部屋

scythe 大鎌

grinding ひく(研ぐ、研ぐ)こと

 

「園遊会」('The garden-party')

marquee (劇場・ホテルなどの)入口のひさし、(サーカス・園遊会などの)大テント;観客動員力

cream-puff シュークリーム

chesterfield ソファー

cobbler 靴屋

sordid むさくるしい、きたない

cooee 「おーい」

fray けんか騒ぎ

daisy ヒナギク

stave たる板、桶板、段

squiz ちらっと見る squeeze しぼる、おしつぶす、はさむ

cluck コッコッと呼ぶ声

chock くさび

 

 

 

その他

 前まで原書と訳本を対照させながら読んでいたのだが、最近はできたら訳本を見たくないと思って、わからない文が出てきたら文法書で調べたり、成句や語句をネットや電子辞書で調べたりしている。また、全体的な話の筋が書いてあるサイトがあれば最後に見るなどしている。それでもわからないところはあるので、そういうところはなるべく全体を読んだ後に、訳本があれば見たい。また、わからなかったところで興味を持った文や文法があれば、紹介したい。英語は得意とはいえないので訳なども間違えなどがあれば指摘していただけると有難い。

 今回のマンスフィールドの作品は、ウィキや内容・感想を書いた記事以外にも大学の教員が論文を書いているものもpdfでいくつかあり、そういうものは専門的であり、そうなのかとおもうことが多くあった。論文は自分が未読の作者、作品について書かれたものであるとほとんどわからないことが多いのだが、実際に読んだことがある作者や作品だと読めていけていいと思った。

 

読んだもの

Katherine Mansfield, Selected stories, Newyork: Oxford University Press, 1987に収録されている三つの短編

 

参考

Sherwood Anderson, Winesburg, Ohio, New York: Penguin Books, 1992