馬についての話

 馬に関する話を三つ読んだ。続けてそれらについて書いていく。長い。

 

デーヴィッド・ハーバード・ローレンス(D.H.Lawrence)、「木馬の勝者」('The rocking-horse winner')

 最初はD.H.ローレンス(1885-1930)の「木馬の勝者」を読んだ。

 全体として、貧乏の家庭の息子ポール(Paul)が競馬の賭けにどんどんはまっていってしまい、その結果どうなったのか、ということがかかれている。

 家庭には二人の娘と一人の息子ポールがおり、子供たちを学校へ行かせるためにお金が必要であったが、低収入で、家庭は貧窮していた。しかし、両親ともに見栄えは気にしており、趣味にお金を使っていた。ポールと母親の仲は決していいとは言えなかった。あるとき、ポールが遊んでいると、ポールは部屋の中にある木馬から「もっとお金があるはずだ」という声を聞いた。ポールはそれで馬に乗って、「運のあるところにつれていってくれ」ということをなんどもさけんだ。ポールの叔父はポールに競馬の賭けを紹介し、また、若い庭師バセット(Bassett)と知り合いで、三人でよく競馬場へ賭けに行った。ポールの予想はよく当たり、大金を手にした。大金を手にし、それを母親に渡した後も、部屋に聞こえる不気味な「もっとお金があるはずだ」という音はなりやまなかった。

 ポールの予想は外れることもあった。それでポールは馬の賭けのことを考え続け、休むことを勧められるほどどんどん調子が悪くなっていったのだが、しかし、依然と賭けのことを考え続けた。また、ポールは部屋にある木馬に乗ればどの馬を予想すれば当たるのかが閃く気がして激しく乗り続けた。

 

 

 ポールのギャンブルにのめり込んでいく様子が怖かった。木馬から発している「もっとお金があるはずだ」という囁きも怖かった。呪われていると思った。この囁きは、ポールが大金を手にして母親にあげた後も続き(ひどくなり、蛙のような音がした。)、ポールの不安の要素の主なものだったのだと思う。ポールはその音を聞き、不安になっていった。

 

 母とポールは仲がよくない、感想として母は意固地だと思った。例えばポールに対して母も父も運がない、ということを言う。ポール自身は神が言っていたから運があるということを言うのだがそれを信じようとはしない。母は「自分は運がない」ということを思い続けていた。そしてポールは幸運の手掛かりを探そうと賭け事に熱中する。後半でもポールは「幸運であるのか」ということを気にしている。仮にもう少し母がポールが幸運であるということを認めれば、ポールが競馬にはまっていくのを和らげたと思った。

 

 ここでポールの母が言っていたいくつか似たような言葉('lucky', 'lucre', 'rich')があるので紹介する。(引用のあとはkankeijowboneの訳)

・幸運(lucky)-'It's what causes you to have money'(p.83)(幸運とはお金をもたらしてくれるものである)

・利益(lucre)-ポールが叔父が「あぶく銭、賭け事(Filthy lucre)がお金である」と言っていたということに対しての母のセリフ-''Filthy lucre does mean money,' said the mother. 'But it's lucre, not luck''(p.83)(あぶく銭(賭け事)はお金を意味するがそれは利益であり幸運ではない)

・恵まれていること(rich)(幸運(lucky)との違い)-''...If you're lucky you have money. That's why it's better to be born lucky than rich. If you're rich, you may lose your money. But if you're lucky, you will alwarys get more money.''(p.83)(「恵まれている(rich)のであればお金を失うこともあるが、幸運(lucky)であればそれはない。幸運(lucky)に生まれてくることは恵まれて(rich)生まれてくることよりもいい」)

 

 そういうふうに分けるのかと思った。気に留まった。

 

 

出てきたレースの名前や場所(wikiで調べた)

'the Lincoln races'(p.87)-ヨークシャーの3月の終わり、または4月のはじめのほうにドンカスター(Doncaster)で開催される。

'Grand National'(p.91)-エイントリ―競馬場(Aintree Racecourse、リバプール郊外)で開かれる。4月開催。

'Derby'(p.91)-もともと3歳馬の競争。エプソム競馬場(Epsom Downs Racecourse、ロンドンより27キロ南に離れたところにある)でのダービーステークス(Derby Stakes)の後にそう名付けられた。

 

 

 

ディック・フランシス(Dick Francis)、「間違いない死」('Dead Cert')(一章のみ)

 その次はディック・フランシス(1920-2010)の「間違いない死」を読んだ。寺山修司が萩本晴彦との対談でおもしろい競馬小説として挙げていたので(他にはヘミングウェイやウィリアム・サローヤン)前から気になっていた。今回読んだ本はペンギンブックスで出ている1995年あたりのペンギンブックス60周年記念の'Penguin 60s'というものだ。コンパクトで小さい。ページ数も60ページで「間違いない死」はそのうちの18ページである。第一章のみ入っていた。

 

 主人公はヨーク(Mr York)という競馬選手である。ヨークは障害物競争に参加する。メイドンヘッド(Maidenhead、イングランド南東部)競馬場が舞台。アドミラル(Admiral)という馬に乗ったビル(Bill)がヨークと同じ競争に参加する。アドミラルが勝つことが予想されていたのだが、途中、転倒してしまい、かわりに主人公のヨークが勝つことになる。怪我をしたビルは病院へ運ばれる。ヨークはなぜビルが転倒したのかは思いつかず、現場に行ってその理由を探る。

 

 今回は第一章しか読んでいないので、なぜ転落したのか、ということは本文で軽くふれているにとどまっていたが(「針金が現場に落ちていた」等)、今後さらに展開されていくのだろう。全部で二十章ほどある話である。

 

 アドミラルに乗ったビルはフェンスを飛び越えるときに転落してしまうのだが、その描写がよかった。足に注目していたり、単に自分が競馬の小説を読んでいないだけだが、そういうふうに書くのか、と思った。以下引用(そのうしろはkankeijowboneの訳)。

'Aghast, I saw the flurry of chestnut legs threshing the air as the horse pitched over in a somersault. I had a glimpse of Bill’s bright-clad figure hurtling head downwards from the highest point of his trajectory, and I heard the crash of Admiral landing upside down after him.'(p.3)

(「馬が投げ出され宙返りになり、栗色の馬の足が動揺しながら空気を打つのを私はおびえながら見た。ビルは最高点の軌道に達し、目立つ服を着た姿を見せ、頭は下方に突進していった。そして私はビルが落ちたあと、アドミラルがさかさまになりすさまじく地面に落ちた音を聞いた。」)

 

 

 

 

エドワード・モーガン・フォースター(Edward Morgan Forster)、「天国への馬車」('The Celestial Omnibus')

 E.M.フォースター(1879-1970)の「天国への馬車」も読んだ。'omnibus'というのは「総集編」という意味もあれば、ほかに「乗合馬車」や「乗合自動車」という意味もある。この話で出てきた'omnibus'は「乗合馬車」という意味で使われていた。

 

 少年(The boy)の住んでいる家はバッキンガムにある。近くに、空地を指し<天国へ>('To Heaven')と書いた看板を発見する。両親に聞くと、それはジョークのひとつであると言われた。教会の長、州会の候補者でり、図書館に莫大な量の本を寄贈していたボン氏(Mr Bons)にも聞くと、それはシェリー(Shelly)(ここはSuperSummaryというサイトを参考にするとpercy Bysshe Shelly(1792-1822、詩人)のようだ)が書いたという。

 少年は馬車があるということは作り話だと思いつつ、探し、通りに馬車があった。

 少年は馬車に乗り込んだ。運転手はトーマス・ブラウン(Sir Thomas Brown,1605-1682、著作家)である。馬車は上昇し、霧の中を走ったり、雷や虹に近づいたりした。

 少年は戻ってきて、馬車に乗っていて起きた話を家族やボン氏に話したが、信じてくれなかった。ボン氏は書物の中の人物や出来事は信じると言ったのだが、少年が実際に体験したことは信じなかった。けれどもボン氏は少年に連れられ、馬車へ向かうことになる。信じてはいないのだが。今度の馬車は、運転手が違っており、死体のような運転手であった。

 少年は前回馬車に乗ったときに出会った、セアラ・ギャンプ(sarah gamp、ディキンズのマーティン・チャルズウィット(Martin Chuzzlewit, 1843-44)に出てくるキャラクター)やトム・ジョーンズ('Tom Jones', 1749, ヘンリー・フィールディングの作品)の話をするが、ボン氏はそれをよく思っておらず、「私のような教養溢れる人物はセアラ・ギャンプやトム・ジョーンズなどで時間を無駄にせず、シェークスピアやホメロスの話をする」ということを言う。

 ボン氏は早くこの馬車から降りたがっている。少年は美しい景色が窓の外から見えるのだが、ボン氏には見えない。ボン氏の体調はどんどん悪くなっていく。

 

 ボン氏は地位のある人で、本に出てくる人物はよく知っていたのだが、どこか傲慢さを感じさせる人物であった。とくにそういうことを表すものとして以下のものがあると思った。少年とボン氏で馬車に入るとき、ドアには<'Lasciate ogni baldanza voi che entrate'>(p.54)(「このドアに入るときすべての自負を捨てろ」というような意味のようだ(SuperSummaryというサイトを参照))(イタリア語でそれぞれ'Lasciate'-「やめる、去る、離れる」、'ogni' -「あらゆる」、'baldanza'-「自信、大胆、自負」、'voi'-君」、'che entrate'-「その入り口」)とあったのだが、'baldanza'は'speranza'-「希望」の間違いではないか、ということを言う(p.54)。(-‘Lasciate ogni speranza voi che entrate’「このドアに入るときすべての希望を捨てろ」という意味のよう。SuperSummaryというサイトを参照。)ドアに書いてあった「このドアに入るときすべての自負を捨てろ」というのは地位があり、少年の体験を信じないで書物の出来事を信じるボン氏にこの言葉が向けられているふうに思えたが、ボン氏がそれは「このドアに入るときすべての希望を捨てろ」の間違いだ、ということをいうのは、少年が乗った経験のある馬車に期待せず(希望を持とうとせず)また、自負を捨てようとしないでいる様子が書かれていると思った。

 馬車の向かった先にはさまざまな人物がでてきたが、もう少しそれらについて知っていれば、もっと楽しく読めると思った。

 

結び(まとめ)

「木馬の勝者」では競馬に熱中していく少年について書かれていた。

「間違いない死」(第一章のみ)では勝つと予想されていた馬が倒れてしまい、それにはなにかわけがあるようだった。

「天国への馬車」では馬車に乗って、天国へ行く様子が書かれていた。

 

調べた単語などの一部(主に電子辞書やWeblioから)

・「木馬の勝者」('The rocking-horse winner')

'smirk'-ほくそ笑む

'They lived in style'-彼らは贅沢な暮らしをした

'pram'-乳母車

'frenzy'-興奮

'batman'-馬の世話をする人

'race-meeting'-競馬大会

'serene'-うららかな

'knack'-こつ

'drapesy'-布地屋

'iridescent'-虹色に輝く

 'trivet'-三脚台

'divulge'-漏らす

 

・「間違いない死」('Dead Cert')(一章のみ)

'steeplechase'-障害物競走

'hindquarters'-後ろ足と臀部

'harlequin'-トリックスター、道化者

'abdomen'-腹

'odds-on'-勝ち目ある

'impenetrable'-不可侵領域

'bridle'-頭部馬具

'tendon'-腱

'concussed'-激しく揺さぶった

'algebra'-代数の論文

'deduction'-差引き

'side-track'-側線

'sodden'-びしょ濡れの

'grandstand'-正面特別観覧席

'frivolous'-うわついた

 

・「天国への馬車」('The celestial Omnibus')

'breadwinner'-一家の稼ぎ手

' Belle Vista'(イタリア語)-美しい景色

'nonchalant'-平然と

'terrene'-現生の

'titular'-名だけの

'homonymous'-あいまいな

'evergreen'-常緑の

'precipice'-崖っぷち

'truancy'-無断欠席

'untrodden'-踏まれていない、未踏の

'vex'-いらだたせる

'cadaverous'-死体のような

'chariot'-戦車

'vellum'-子牛紙、上等皮紙

'sovereign'-主権者

'prim'-几帳面な

 

読んだもの

・D.H.Lawrence, The rocking-horse winner('Love among the haystacks and other stories'より), Harmondsworth: Penguin Books, 1975

・Dick Francis, Dead Cert: The first chapter('Racing classics'より), Harmondsworth: Penguin Books(Penguin 60s), 1995

・E.M.Forster, The Celestial Omnibus('Collected Short Stories'より), Harmondsworth: Penguin Books, 1967