主に食の描写に注目して、佐藤愛子著『ソクラテスの妻』を読む

 題名にあるソクラテスの妻とは調べると、クサンティッペのことのようだ。クサンティッペは知らなかったので調べた。以下引用。

クサンティッペ ソクラテスの妻。夫を理解せず常に夫をののしっていたといい、古来、悪妻とされる。 (コトバンク)

 

 前に、向田邦子の『寺内貫太郎一家』の食について注目して書いたー(おもに食について注目して、)向田邦子の『寺内貫太郎一家』を読む。今回も食べ物について注目していった。印象的な表現を紹介する。まずは本の内容と感想から。

 

本の内容

 お人好しで、金貸しをしており、文学かぶれの会を開くソクラテスにたいしての妻の不満が書いてある。

 

感想

 ソクラテスの妻の不満がいろいろと書いてあったが、コトバンクで調べて出てきた悪妻、というふうには思わなかった。ソクラテス(夫)が悪い、と思うところが多々あった。

 

食べ物(食)についての描写

 3つ紹介する。

 まずはソクラテスが文人かぶれの会に行っていて、帰りが遅い、というところ。文の一番初め。

 ゆうべもソクラテスの帰りは一時すぎでした。それで今日もわたしたちのお昼御飯と、ソクラテスの朝御飯とが一緒でした。 (p.7)

 ここでは、ソクラテスがいかに起きるのが遅いのかわかる。

 

 次にソクラテスの癖。ソクラテスは妻と喋っているときに「よしよし」と食べ物にするようだ。以下引用。

 ソクラテスは三杯目の紅茶を茶碗に注ぎ、一杯目のときから入れたままになっているレモンの薄切をスプーンで押し潰しながら、「よしよし」といいました。それがわたしとの会話を進めまいとするときの、いつもの彼の手なのです。(p.11)

 変わった癖だと思った。ほかにも、ソクラテスが詐欺にやられたシーンで「よしよし」をしている。以下も引用。

 「五万円の損なのよ。あなた!」 しかしソクラテスがわたしに向ってやっといった言葉は、「よしよし」の一言でした。見るとソクラテスは、わたしが興奮のあまり、ついヒーターの上から取るのを忘れた食パンの黒こげを、一生懸命バターナイフで削っているのです。(p.44,45)

 妻が食パンを焦がしているなか、ソクラテスは「よしよし」と言って、それを取ろうとしているのは落ち着いていると思った。

 

 三つめはソクラテスが文人かぶれの同人会をソクラテスの家で開いた後、それに参加していた女流作家の卵がもってきたシュークリームの箱を持って上ってきたところに対して。以下引用。

 わたしがシュークリームが好きなことを、何かのときにソクラテスが彼女に話したことがあるのだそうです。 「よく覚えていたもんだ」ソクラテスは言いました。 「ああ見えても、女らしい」ところがあるんだね

 ソクラテスは、全く何ごともなかったかのように、けろりとしていました。わたしの泣き腫らした顔にも、気がついていないようでした。彼はシュークリームの箱をあけ、わたしにさし出しました。いきなりわたしは立ち上り、寝ている太郎を飛びこえて窓の外へシュークリームの箱をほうり出しました。 (p.59)

 (太郎はソクラテスの妻の子)

 

 窓の外へシュークリームの箱をほうり出す、というところがインパクトが強かった。

 ここのまえで、妻は、同人会を家で開いたことにもいらいらしているのだが、ここで、ソクラテスが同人会に参加していた女流作家を褒めたので、さらにいらいらしたのだろう。

 

 『寺内貫太郎一家』では、貫太郎が暴力をしたので、お手伝いのミヨ子が少しの間だが、ごはんを食べない、ということをした。食べ物についての怒りの表現は、シュークリームの箱を投げる、ということもあれば、ごはんを食べない、ということもある。

 

参考としたもの

コトバンク、「クサンティッペ」

佐藤愛子、『ソクラテスの妻』、中公文庫、1991年(18版)

ソクラテスの妻 (P+D BOOKS)

ソクラテスの妻 (P+D BOOKS)

 

 

 

文にも書いたが『寺内貫太郎一家』でも食について、注目していった。以下の記事。

kankeijowbone.hatenablog.com