小説は生活からくるものか?(菊池寛の「小説家たらんとする青年に与う」を読んで)

 菊池寛(1888年(明治21年)12月26日 - 1948年(昭和23年)3月6日)は、雑誌「文藝春秋」を創設したり(1923年)、1935年、直木賞・芥川賞を設立した人物である。今回は「小説家たらんとする青年に与う」(講談社、「日本現代文学全集」より)という作品を読んで、小説は生活から来るものか、ということを書いていきたい。 

※この作品は旧字体で書かれていたが、新字体に直した。

 

「小説家たらんとする青年に与う」のなかで生活について書かれていて気になったところ ※省略した部分は(…)で表記した。

 僕は先ず、「二十五歳未満の者、小説を書くべからず」という規則を拵えたい。全く、17,18ないし20歳で、小説を書いたってしょうがないと思う。

 とにかく、小説を書くには、文章だとか、技巧だとか、そんなものよりも、ある程度、生活を知るということと、ある程度に、人生に対する考え、いわゆる人生観というべきものを、きちんと持つということが必要である。

(…)

 吾々が小説を書くにしても、頭の中で、材料を考えているのに三四カ月もかかり、いざ書くとなると二日三日で出来上がってしまうが、それと同じく、小説を書く修行も、いろいろなことを考えたり、或いは世の中を見たりすることに七八年もかかって、いざ紙に書くのは、一番最後の半年か一年でいいと思う。

 小説を書くということは、決して、紙に向って、筆を動かすことではない。吾々の平常の生活がそれぞれ小説を書いているということになり、また、その中で、小説を作っている筈だ。

(…)

 僕なんかも、始めて小説というものを書いたのは、28の年だ。それまでは、小説といったものは、全く一つも書いたことはない。紙に向って小説を書く練習なんか、少しも要らないのだ。

(…)

 それから、小説を書くのに、一番大切なのは、生活をしたということである。実際、古語にも「可愛い子には旅をさせろ」というが、それと同じく、小説を書くには、若い時代の苦労が第一なのだ。金のある人などは、真に生活の苦労を知ることはできないかも知れないが、とにかく、若い人は、つぶさに人生の辛酸をなめることが大切である。 (194-195p)

 

 しかし、ただ生活をしていればいいのかというと、そうではなく、どういう風に他の作家が人生を見たかが大切であるという。以下はその部分。

 では、ただ生活してさえ行ったら、それでいいかというに、決してそうではない。生活しながら、色々な作家が、どういう風に、人生を見たかを知ることが大切だ。それには、多く読むことが必要だ。

 そして、それら多くの作家が、如何なる風に人生を見ているかということを、参考として、そして、自分が新しく、自分の考えで人生を見るのだ。言い換えれば、どんなに小さくても、どんなに曲っていても、自分一個の人生観というものを、築き上げていくことだ。 (195p)

 

それを読んで

 上にあったように、菊池寛は初めて小説を書いたのが20代後半と遅かったようだ、そこからの立場で書かれているということは注意すべきだと思う。

 しかし、菊池寛のいうように、たしかに、生活が小説そのもの、生活の苦労を知るべし、そして人生観をもつべきだというのあるかもしれない。また、「吾々の平常の生活がそれぞれ小説を書いているということになり」というところは、書くというのは生活することでもあるのか、と思った。

 

 けれども、実際のところはどうなのだろうか…例えばプロ野球と高校野球、高校野球だと若く、下手な部分もあるが、それゆえのよさ、というのもあるとおもう。

 芥川龍之介とか大江健三郎とかは、若いうちから才能があったような…というふうにも思う。

 

 が、小説を書く場合はもしかしたらプロ野球などのスポーツとは違って、若いうちから苦労するのが難しいのかもしれない。

 自分は、何歳で、才能が現れるのか、ということは人それぞれだと思う。しかし、文を書くとなると、菊池寛の言ったように、ある程度年齢をとっていないといけないようにも見える。

 

おわりに

 菊池寛のいうように、小説というのは、ある程度生活をしていかなければならない、また、人生観をもっていなくてはならないと思う。が、それは菊池寛自身が遅くから小説を書き始めた、ということは注意すきだと思う。また、若くして才能あったものもいるので、結局は何歳で小説を書くのかは人それぞれではあると思う。

 今回は主に菊池寛は生活の苦労の面を言っていたと思うが、他にも生活といっても色々あると思う。生活とは何か、ということも見ていけたらと思う。

 

今回読んだもの

菊池寛、「小說家たらんとする靑年に與ふ」(日本現代文學全集57 菊池寛・久米正雄集、1967年より) ※旧字体で書かれたものは新字体に改めた。