石川利光著「春の草」(第25回 (1951年上半期) 芥川賞受賞作)を読む

以下話の内容や感想などを述べる。

 

内容

 主人公は銀座の新興百貨店の会計係の中年、京口である。話は国分寺駅近くにある「亀一」という飲み屋で勤務の後、京口が飲んでいるところから始まる。

 

 京口には大学のころ知り合った妻の睦子がおり、京口の出征中、睦子は京口の義父の助手を務めていた。

 京口は茨城に復員後、妻睦子がどこか様子が出征前と違っていた。京口の母は京口の復員後、就職のことをやかましくいった。京口は職探しに東京に行っていた。妻睦子にも「上京しよう」というふうに京口は言ったが、どうも様子がかわっており……京口は東京で住む家を探し、また、職も探し、一人で上京することにした。その後は東京に妻の睦子が義父との子供ができたので掻把したいといって来たり、また、東京の隣人の様子や飲み屋「亀一」の様子などが書かれている。

 

感想 

 しみじみした話だと思った。 

 話の流れは自然なかんじがした。復員後の妻が変わってしまった様子や、上京してから飲み屋に行っている様子があった。

 

 印象に残ったところを紹介する。 

 以下は飲み屋「亀一」の様子である。

 京口は空いたテーブルに腰をおろす。テーブルと言っても四尺に一間の汚れて黒光りしている台である。その両側に一枚板の粗末なベンチ。昔は旅籠だったと云う。なるほど、柱も天井も時代を経た煤けようである。すぐにでも何かの店を出せそうな広い土間。テーブルは二つきりない。土間の中ほどに衝立があり、その向うにリヤカー、自転車、鍬などが見える。

 あっさりした店内の様子がとらえどころなかった。

 

選評

 第25回は他に安部公房の「壁」が同時受賞している。候補作には安岡章太郎「ガラスの靴」、柴田錬三郎「デスマスク」、堀田善衛「歯車」などがある。

 

 選考委員は丹羽文雄、佐藤春夫、瀧井孝作、岸田國士、宇野浩二、坂口安吾、川端康成、舟橋聖一である。

 

 丹羽文雄は以下のようにいう。

 石川利光の「春の草」「冬の蝶」、この作者は一作ごとによいものを書いていく。「冬の蝶」は書出は自伝調だが、「春の草」になると、がらりと変っている。シチュエーションの設定にも細心の注意がゆきとどき、ぴたりと押さえている。新鮮なレモンと評した人があったが、適評である。この人も却々の小説上手だが、才気に流されていない。 (441頁)

 

参考

今回読んだもの 石川利光、「春の草」 (「芥川賞全集 第4巻」より)、文藝春秋、1982年