内容
猫に関しての話。主人公である私の淡いチャコールグレーの雲という猫は死んでしまったのだが、その猫に似た大きな猫のぬいぐるみが「竜太」という小さな店に置いてある。「竜太」の主は志野といって、母が猫を飼っていたようでそれも主人公の私と同じチャコールグレーの猫であり、名前を竜太と言った。「竜太」の猫のぬいぐるみは志野が幼いころから家にあったもののようで、非売品であったものの私にくれた。私と志野以外にもgといって雑誌を書いている人物がいてこの人は前に出てきた二人と同じような猫——ダイアナという猫が死んでしまったようで、「竜太」に置いてある猫のぬいぐるみが欲しかったのだが、既に主人公の私に譲られていた。
このあとも主に猫について話は進む。
感想
題名である小さな貴婦人とは、gがつけたダイアナという猫の愛称である。
筋を追っていこうとしたが、特に最後の方は夢の話だったり、gの雑誌の内容がそのまま書かれていたのでついて行けたとは言えない。
主に出てきた人物三人ともに猫に対してすごく愛情があるのだということはなんとなくではあるがわかった。
印象に残ったところは志野の母親がぬいぐるみをセロファンで包んで眺めていたというところ。どこかセロファンに情緒があると思った。
選評
選考委員会には井上靖、遠藤周作、大江健三郎、開高健、中村光夫、丹羽文雄、丸谷才一、安岡章太郎、吉行淳之介の九委員が出席。(瀧井孝作は病気のため欠席。)
吉行淳之介は以下のようにいう。
理恵は一時期、猫から離れた作品を書いて、今度一冊にまとまったばかりだが、この作品はまた猫である。やれやれ、と読みはじめたが、もはや病膏肓、猫が自分か自分が猫か、猫の人相学や手相まで出てくる始末で、ここまでくれば許せるとおもいはじめた。読んでいるうちに、おもわず声を立てて笑ってしまったところが数カ所あったのは、この人猫一体のためであろう。たとえば、犬猫病院で死んだ猫の死体を、喪服を着て引取りに行った婦人がいて、医者がびっくりして値段を割引いてしまった、とか。何か真面目な顔のユーモアを感じて、そういうところを評価した。 (397頁)
参考
今回読んだもの 吉行理恵、「小さな貴婦人」 (「芥川賞全集 第12巻」より)、文藝春秋、1983年