田山花袋著「一兵卒」を読んだ感想

 「蒲団」を読んだので引き続き田山花袋の本を読むことにした。以下、感想を書いていく。

 

 

話の内容

 日露戦争の最中、脚気で苦しむかれが病院から出てきて、宿る所或は軍医を探すけれどもある洋館を見つけそこで休もうとしている際死んでしまうという話。 

 

読んだ感想

 舞台は中国の方で、日露戦争の最中である。中国の地図は頭に入っていないので、読んでいて(ここはどこだ)という風に思ったが、それはそれでいいような感じがした。主人公は渠。「蒲団」の時も主人公の表記を渠という様にしていたが、この字は独特な感じが漂っている。「蒲団」とは大分話の内容が違っていて(同じ作者が描いた作品なのか)と思った。

 

好きな表現

  好きな表現はたくさんある。まずは話の最初の方——

 銃が重い、背嚢が重い、脚が重い、アルミニューム製の金椀が腰の剣に当ってカタカタと鳴る。その音が興奮した神経を夥しく刺激するので、幾度かそれを直してみたが、どうしてもなる、カタカタとなる。もう厭になってしまった。

 アルミニューム製と片仮名で書いてあるところがいいと思った。

 

 そして歩いていると二人の兵隊に銃と背嚢を受け取った後の描写——

 渠はもう歩く勇気はなかった。銃と背嚢とを二人から受取ったが、それを背負うと危く倒れそうになった。眼がぐらぐらする。胸がむかつく。脚が気怠い。頭脳は烈しく旋回する。

 銃と背嚢がどれだけ重いかは具体的には書いていない。が、背負うと倒れそうになるという表現が疲れ果てている感じを出していてリアルだ。

 

 以下は休み処を探し歩く場面である。

 闇の路が長く続く。ところどころに兵士が群をなしている。ふと豊橋の兵営を憶い出した。酒保に行って隠れてよく酒を飲んだ。酒を飲んで、軍曹をなぐって、重営倉に処せられたことがあった。路がいかにも遠い。行っても行っても洋館らしいものが見えぬ。三、四町と言った。三、四町どころか、もう十町も来た。間違ったのかと思って振返る——兵站部へいたんぶは灯火の光、篝火の光、闇の中を行違う兵士の黒い群、弾薬箱を運ぶ懸声が夜の空気を劈いて響く。

 酒処をさがし、飲んでいたというところと……最後の方の「弾薬箱を運ぶ懸声が夜の空気を劈いて響く。」というところがいいと思った。

 

 短く、そしてリアリティーが伝わってきた点で新鮮な感じがした。

 

参考

手元にある物—田山花袋、『蒲団・一兵卒』、2005年、岩波文庫

 

(「一兵卒」は明治四十年12月の作。翌年一月号の『早稲田文学』に載った。)