有吉佐和子著『紀ノ川』を読む

 有吉佐和子の本は『華岡青洲の妻』を読んだことがあるが、あまり覚えていない。医薬品の実験台をさせられていたような……という記憶しかない。それ以外に『青い壺』も途中まではいったのだが、登場人物の多さに最後まで読むことはできなかった。

 『紀ノ川』は題名が気に入っており、前から探しており、見つけたので読むことにした。

 本書は三部に分かれている。時代はそれぞれ、明治・大正・昭和である。舞台は和歌山の紀ノ川周辺。

 第一部は花という人物が中心で、この花には豊乃という祖母がおり、強力な力をもっている。花の縁談の時、紀ノ川が東から西へ流れているという理由で、嫁に行くときもその流れに従うべきだと言う。花はこれに従う。第二部は花の娘、文緒が出てくる。文緒は最初は母の花に反発しているところもあったが、次第に地方の行事などを通し、反発もおさまっていく。文緒は独立心は強いが、あやふやな印象だった。第三部は文緒の娘、華子が出てくる。華子は生まれてすぐ、文緒の夫の勤め先であるジャバに行ったため日本に来た時、例えば川や桜などをみるときに常に発見が伴う。

 花は小説の最後の方で死んでしまうのであるが、かなりの頻度で出てくる。三代とは言え全体的な主的な人物は花だろうとおもった。他にも多く人物が出てくる。後半は読んでいて、誰の子供なのか若干ついていけなかった。実話ならばまだしも、創作ならよく書けるなと思った。

 けれども明治のところはあまり明治だという感じはしなかったという印象がある。当時の一般的な時事的なことをもってきてそれに登場人物が反応しているような感じだった。が、昭和の所は戦争下でこういうことが起きたということがより詳しく書いてあり、実感が伝わった。

 

 読み進めていて美しいと思った描写がある。次のようなところである。

 綿帽子をとって表座敷に直ると、男客ばかりの披露宴は花婿花嫁の前で杯を挙げ、和歌山市の新内から呼ばれてきた芸者たちが胡蝶のように三十八人の膳のあちこちを飛び廻り始めた。二年も待たせた紀本家を、待った真谷家では祝儀用の本膳四ツ椀を輪島の椀与に新しく造らせて今日の祝宴に備えていた。京塗りよりさらに手間のかかる輪島の漆器は、ふんだんに吊るされたランプの下で黒々と光り輝き、金蒔絵の木瓜の定紋を膳の上に賑やかに浮き上らせていた。 (二十八頁)

  これは第一部の花が新郎の家に行った場面である。最後の方の輪島の漆器が金蒔絵の木瓜の定紋を膳の上に賑やかに浮き上がらせたというところがいいと思った。

 

 川端康成の『古都』では地方の行事の描写があったが『紀ノ川』にもそんな描写があった。和歌山の慈尊院というところでは安産祈願のため乳房形をつくるようだ。『紀ノ川』でもそんな場面は出てきた。地方の行事的な場面は独特なものが多く、面白い。

 

 印象に残ったところは第一部で花が新郎の家に行くところで、川の傍まで行くのに駕籠に乗って行き、駕籠に乗ったまま船に乗ったというところ。駕籠も実際乗ってるところは見たことないのだが、船上で駕籠に乗っているとは、想像し難い。 

 

 

参考

今回読んだものー 有吉佐和子、『紀ノ川』、新潮文庫、二〇一四年

(昭和三十四年(一九五九年)六月中央公論社より刊行。)