幸田文著「崩れ」を読む

 「山の音」を読んだので山についてのものをもっと読みたいと思い手にした。最初、小説かと思って読み始めたのだがそうではなかった。七二歳の幸田文が大谷崩れを見て以来、他の崩れも見に行くというのが話の中心。日光男体山、松之山、大崩海岸、鳶山、桜島等、いろいろなところを訪れる。しかし幸田文は崩壊についてあまり詳しくないようで、崩れについての文献を読むのに苦労している場面が多く描かれている。

 

 

 印象深かったのは幸田文が鳶山の崩れを見に行った時の場面で崩れにも肌の違いがそれぞれあるようなのだということを書いているところ——

 眼鏡をかけてもはっきりとはしないが、ざくざくした感じの崩れ、何やら粘り気のない砂礫ようのものと見える崩れ、それよりももっと細粒でねばい土と推察される崩れ、がっぽりと一時に抜落ちたような崩れ、ざらざらどっと押し出したような形の崩れ、表層の樹木を残して、その下から刳れた崩れ——そしてそれ等の崩れの中には、胸のあたりに突き出して、大きな岩石を危ないバランスで抱えているものもある。 (一一一頁)

 実際どういう崩れ方をしたのかというのはわかるものなのか、と思ったがいろんな崩れがあると考えることもできるのだと思った。

 

 

 それぞれの山に実際行ったことがないので読んでいてもあっけらかんとしていたが、行ったことがあればまた随分違うのだと思う。

 

参考 幸田文、『崩れ』、講談社文庫、2010年