芥川龍之介の作品を読み漁る——「早春」

「早春」

春。大学生中村が上野公園の国立博物館で三重子という女と去年の夏ぶりに会おうとしたが、三重子はこなかったという話。国立博物館は芥川の時代にもあるのかと驚いた。脚注には[もと帝室博物館。明治二十二年創立。]とある。そんなに昔からあったのか。この話では何があるのかというと鳥類の標本室があったり、爬虫類の標本室があったり、今と変わらず色々あるようだ。で、その三重子という女は十年ほどたったある日ある婦人雑誌の新年号の口絵に載っており目方で見るとニ十貫(一貫=3.75kg)を少し越えていたようだった。十年経つ前は十七貫程だったのが。

最近オー・ヘンリーの"After twenty years"というのを読んだ。これは二十年ぶりにある二人は再会する予定だったのだが一方の男が指名手配になっておりもう一方は会わずに警察を呼んだ。会わないという点ではこの作品とも似ている。

話中では爬虫類の標本のところは熱帯の森林を失った蜥蜴や蛇の標本がおり妙にはかなさを漂わせているとある。自分は国立博物館はあまり行かないが隣りの科学博物館はよく行っていたことがある。暗いし、特に平日の夕方にさしかかる時間は人もいないし、階段やトイレに行く途中のスペースなどは石が壮大な感じがして妙にはかなさをだしている感じがある。なのでなんとなく共感するところがある。博物館は哀しい。

 

参考 芥川龍之介、『芥川龍之介全集5』、ちくま文庫、1999年