芥川龍之介の作品を読み漁る——「文章」、「寒さ」、「少年」

「文章」

主人公は保吉。保吉はある学校で英語教師をしており亡くなった本多少佐という人の葬式のために弔辞を作ってくれないかと頼まれる。それで引き受け作った弔辞は来客に感動を与え、泣く人までいたという話。

その帰り、篠垣に小便をしていると思ったら垣のようにできた木戸で口髭をたくわえた男がそこから出てきたというところが印象に残った。

 

「寒さ」

断片的な話が二つ。——ひとつは保吉が理学士と科学的な話をしている。

もうひとつはそれから四五日たって轢死した人がいると保吉は聞きつけ、踏切にいくとそこには嫌悪と共に好奇心を感じさせるような死骸があったというもの。

その後プラットフォームのさきを歩いていると霜曇りの空の下、たった一つ取り残された赤革の手袋が落ちており、その心を感じたというところが印象的だった。タモリ倶楽部でも落ちている手袋に焦点を当てたものがあったが、ふとした瞬間なぜか目にした手袋がこころに残るということはある。

 

「少年」

ばらばらに保吉少年が体験したことが六話ある。とくに「海」という小話がよかった。大森の海岸で保吉少年が干潟に立ってみる海を玩具箱と同じであると捉えたところが面白いなと思った。それと「歯車」や「沼地」でもそうであるが芥川の作品には色の表現をつかう所が良く出てきて、「海」にも出てきた。——保吉は沖の色は青いが、渚に近いところはバケツの錆に似た代赭色をしておりそこには寂しさを感じるとある。で、大森からの帰り、母が買ってくれた「浦島太郎」の挿絵の海にあのさっき見たバケツの錆に似た代赭色を加え、母に見せると「海の色は可笑しいねえ。なぜ青い色に塗らなかったの?」と不思議がられたというところが印象深かった。

 

参考 芥川龍之介、『芥川龍之介全集5』、ちくま文庫、1999年