芥川龍之介の作品を読み漁る——「白」

「白」

犬殺しに殺されそうな黒を助けず逃げ出した白い犬ー白は黒くなってしまって飼い主にも「うちの犬ではない、うちの犬は白いのだ」ということを言われてしまうが他の犬を助けたり、人を助けたりすると色は白くなって飼い主に迎えられたという話。

白が助けをして戻ってきて色が黒から白へとなったとは白は自身では気づいていない。引用すると——

坊ちゃんは突然飛び上ると、大声にこう叫びました。「お父さん!お母さん!白がまた帰って来ましたよ!」白が!白は思わず飛び起きました。同時に白はお嬢さんの目へ、じっと彼の目を移しました。お嬢さんは両手を伸ばしながら、しっかり白の首を押さえました。同時に白はお嬢さんの目へ、じっと彼の目を移しました。お嬢さんの目には黒い瞳にありありと犬小屋が映っています。高い棕櫚の木の陰になったクリイム色の犬小屋が、——そんなことは当然に違いありません。しかしその犬小屋の前には米粒ほどの小ささに、白い犬が一匹坐っているのです。清らかに、ほっそりと。——白はただ恍惚とこの犬の姿に見入りました。

とあり、色が白に戻ったことを発見したのはお嬢さんだけで、それ以外、白色に戻ったことをみつけたという描写はこの作品にない。白は黒くなった時は自分の身体を見たら黒かったという描写があったので黒から白になったことに自身で気づいたという描写がないことが気になった。印象に残ったところは、最初黒という犬が助けてほしいと泣き、その声が白の耳に虻のように唸っていたが、白が東京に出たシーンで「物音は白薔薇に群がる蜂の声が聞こえるばかりです。白は平和な公園の空気に、しばらくは醜い黒犬になった日ごろの悲しさも忘れていました。」とあるところ。虻を動的なところに使っているのに対し虻を静的なところで使って対比している。「歯車」で黄色を不吉な色で使ったのに対し、緑を好い色で使ったことを思い出した。

 

参考 芥川龍之介、『芥川龍之介全集5』、ちくま文庫、1999年