芥川龍之介の作品を読み漁る——「仙人」

「仙人」

大阪に来た飯炊き奉公の権助が口入屋の番頭に仙人になりたいのだがどこへ住み込めばいいのかといったが番頭はどこへ奉公させるべきかわからず、医者に頼んだが医者もわからず…医者の女房が無給で二十年間奉公すれば二十年目には仙人になる術を教えてやるといったので権助はそうすることに……二十年経ち、権助が医者の女房の元へ行き、仙人になる方法を教えてほしいというと女房は「庭の松の木の一番高いところへ登り、両手を放しなさい」といったので権助はそれに従った、すると権助は落ちもせず、昼間の中空へ止まった、やがてだんだん高い雲の中へ上っていった——仙人になったという話。面白いと思ったところは以下三つ。まず仙人になろうと「万口入れ所」とかいてある店の番頭にたずねた事、二つ目は医者の女房のどこから来るのかわからないが仙人にしてやるという自信、どこから湧いてくるのか。この女房が仙人なのかもしれないと思った。三つめは最後の場面の表現——何でも淀屋辰五郎(江戸時代元禄期の大阪の豪商。豪奢を極めた専横な行為が多く、遊女のために家産を傾け、某所などの罪で三都を追放された。芝居などに脚色され有名。)は、この松の雪景色を眺めるために、四抱えにも余る大木をわざわざ庭へ引かせたそうです。

 

参考 芥川龍之介、『芥川龍之介全集5』、ちくま文庫、1999年