「川端康成・三島由紀夫 往復書簡」を読む

動画では、三島由紀夫と川端康成が話しているところをみたことがあったものの、書簡をあつめたものがあるとは知らず、たまたま古本屋で見つけたため、読むことにした。英語の試験に落第することや、大学の試験の勉強が嫌で、川端に手紙を渡したくなったと書かれていたり、連載のために仕事をしなければ、とあったのは、人間らしさがうかがえた。20歳前半の頃から、この二人は付き合いがあるとは、驚きだ。川端のノーベル賞の推薦文をかいたのも三島だと初めて知った。自分は、川端康成のものはほとんど読んだことがないので、三島について、以下、面白かったものを紹介していく。——

三島作品について触れられていたもの 三島作品について、触れられていたところがあったので、記しておく。仮面の告白について——「「仮面の告白」という仮題で、はじめての自伝小説を書きたく、ボオドレエルの「死刑囚にして死刑執行人」といふ二重の決心で、自己解剖をいたしまして、自分が信じたと信じ、又読者の目にも私が信じているとみえた美神を絞殺して、なほその上に美神がよみがへるかどうかを試したいと存じます。(p60-61)」。また、「金閣寺」についても書いてあった。成金趣味の金ぴか本(102)と言っていた。神島について書いてあったページ(p82)は、恐らく、「潮騒」の準備だろう。毎朝、6時半に起きたというのは、気合入っているな、と思った。蛸壺船に乗り込んで、船酔いしないことをほめられたというエピソードはユニークだ。「文章読本」は、一度、川端に「もう少しふくらまして本にするやうに」言われたらしいが、その暇がなく、代わりに「質疑応答」という一章を補うことにしたようだ(p131)。

謙虚さ・自信のなさ 三島は謙虚さや、自信のなさがあるな、とあらためて思った。例えば、p47では、こんな乏しい才能で、文学で身を立ててゆくのは却って文学を貧しくしはせぬかと思ひ、……といってたり、また、「盗賊」をつくるにあたって、こんな莫迦げた作品を存在させるのも罪悪のやうな気がしまして、未完の原稿を、なかなか引っ張り出せない戸棚の奥の奥へ押し込めました。……(p47)とあったり。時々、自分は三島に対して、西洋、日本問わず、知識をひらけかすところがあるな、という風に思っていたが、それについて、次のようなところもあった。——「昔からのよくない癖で、外国の作家と言わず、日本の作家といはず、系統立てた読み方をいたしませんで、ただ「好きなもの」「美しいもの」と選って読んでまいりました結果、御作につきましても、御制作順や年月日について漠然たる知識しか持ち合はさず、本来「解説」というものは、読者の自由な享受への橋渡しの域をこえるものであつてはならぬといふことは存じながら、あのやうな主観的な文章を書きまして申訳ございませんでした(p60)。」三島自身も、それはわかっていて、と知った後だと、三島に対して、物申したい気持ちも少し和らいだ。

「レター教室」を思い出した…… 最初の方——特に昭和20年のもの——は、文章が堅くて、読みづらいな、と面食らったが、だんだんとそんなこともなくなり、このあいだ読んだばかりの「レター教室」を思い出したところもあった。p199-200の自衛隊関連の運動をするところで、結局、徒労に収まってしまうのでは、と書いた後に(もしかしたら90パーセント!)とあったところは何となく、「レター教室」っぽいな、と思った。90パーセントってかなり、やめる方に傾いているじゃないか、と。p142の「このごろはどこへ行っても俳優業のことをからかはれ、今さら世間が怖くなりました。(これは嘘)(p142)」とあったところは、嘘なのか、と思い、ユーモアを含ませたようで面白かった。川端の入院(p122)に対して、寝具だったり、洗面具だったり、台所まわり品だったりを書いてあったところも、笑わそうとしているわけではないだろうが、そう詳細に書いてあると、笑ってしまった——鏡、安全ピン、お椀、醤油、爪楊子、スリッパ数足、……など、あれやこれやと三島が用意している。

気に入った表現——(三島が、川端のノーベル文学賞を推薦するために書いたもの(p238)) In Mr. Kawabata's works, delicacy joins with resilience, elegance with an awareness of the depths of human nature;  their clarity conceals an unfathomable(底知れぬ) sadness,/he is obsessed by a constant theme: the theme of the contrast between man's fundamental solitude and the unfading(色褪せぬ) beauty that is glimpsed(一見する) momentarily in the flashes of love, as a flash of lightning may suddenly reveal the blossoms of a tree by night.

この本を読んだ後、川端と三島の話している動画をみたら、ずいぶん変わるだろう。というのも、これを読む前は、三島と川端がなんとなく、親交があるのはわかっていたが、ほんの少しのことかと思っていたからだ。二人は交流が深いのだと分かった。

参考 川端康成・三島由紀夫、「川端康成・三島由紀夫 往復書簡」、新潮文庫、2000年。Youtubeの三島・川端・伊藤の話しているもの。三島由紀夫、「三島由紀夫レター教室」、ちくま文庫、2012年。