ルーマー・ゴッデンの「黒水仙」(Black Narcissus)について

 中心となる舞台はインドのヒマラヤのそばの尼寺であり、そこは学校や病院をつくるためシスター(修道女)が必要だった。修道院の長から選ばれ、馬で尼寺へ向かう。シスターはひとりではなく、複数いる。ークローダ(Sister Clodagh)、ブリオニー(Sister Briony)、ハニー(Sister Honey)、フィリッパ(Sister Philippa)、ルース(Sister Ruth)。

 ほかの登場人物は迷惑をかける、若くてかわいらしい17歳のカンチ(Kanchi)や将軍の跡継ぎなど。

 その尼寺でシスターを将校の代理人ディーン(Mr Dean)が迎える。学校や薬局の建物などは着々と造っていく。そしてクリスマス、春の訪れ、イースター、受難節など、それぞれの季節に応じて出来事が起こる。

 様々な問題も起こる。それはカンチがものを盗んだり、ルースとディーンの恋愛の問題であったり、死にそうな子供連れの母親が来て、ハニーがその子供のために薬をあげたのだが結果死んでしまったり。だんだんと、修道士たちは村人から疎まれ、子供は学校に来なくなり、状況は悪くなっていき、修道士たちは追い込まれていく。

 

 

 

 とくに診療についてのことはよく出てきたため頭に残った。クリニックは建てるべきか、助けようのない患者へどう対応すればいいのか、など。先ほども書いたがハニーが、診療所に訪れた子のために薬をあげた結果死んでしまう。以下の文は残酷さを感じた。代理人のディーンがこういうことが前にあったと言っている場面で、決して故意ではなく、事故であっても、それは深刻なことであるということをあらわしている。引用する。(訳はkankeijowbone)

'The Agent here before my day was riding his pony down to the factory one day and he let it kick an umbrella that was open on the path, over the edge. There was a baby asleep under it and it was killed. It was an accident but they murdered him that night.’ (p.177)

「ここの私の前の代理人はある日、工場まで小馬に乗っており、道に開いた傘を見かけたため正気を失って蹴った。赤ん坊が傘の下で眠っており死んだ。それは事故であったが村人はその夜、前の代理人を殺した。」

 

 題名の「黒水仙」(Black Narcissus)は20章で将校の跡継ぎが軍や海軍の店で購入し、つけている香水の名前である。その匂いは強烈でシスターにめまいをおこさせるほどのものだった。ウィキを見るとキャロン(caron)というブランドの水仙の香水を指すようだ。込められた意味はあったのか、どういう意味でこのタイトルにしたかは気になった。

 

 鐘の音が、夕を告げる、朝を告げる、重要な人が来たときに鳴らすなど書いてあった。鐘の音の種類は時間帯などによって違うのだろうか。鐘の音は自分は教会を通ったとき、きいたことがあるのだが、音が大きくて一帯に響き渡り荘厳な感じがした。また聞いてみたい気もする。

 

 

 1947年に公開された映画もある。


BLACK NARCISSUS - Trailer - (1947) - HQ

 

 

語句

reverend 尊敬すべき

stick to one's guns 自分の立場を固守する

hopscotch 石蹴り遊び、けんけんぱ

ringworm 白癬(皮膚感染症のひとつ)

pantheism 汎神論

anklet 足首の飾り

boisterous 大荒れの、荒れ狂う

invulnerable 不死身の

plait 編み下げ、おさげ

deodar ヒマラヤスギ

peon (中南米で)労働者

 

 

読んだもの

Rumer Godden, Black Narcissus, London/Basingstoke: Pan Books, 1994

スティーヴンソンの「セヴェンヌでのロバとの旅」('Travels with a donkey in the Cévennes')について

 スティーヴンソン(1850-1894)がセヴェンヌ(山地、フランスの南の方にある)という場所で12日間、ロバとハイキングをする様子が書かれている。100ページほど。

 

 スティーヴンソンと一緒に旅をするロバの名前はモディスティン(Modestine)といって、頑固で、自分のペースで進み、早く駆けることもあれば全然進まないこともある。

 荷物にはいろいろと工夫が見られた。例えば最初の荷物はテントだと目立ち広げるのが面倒なため、寝袋を選んだ、など。

 セヴェンヌという場所の一部分は1702~5年ごろ、カミザール(Camisards)の乱がおこった場所で、スティーヴンソンがそれを想起してしまい、怖くて、怯えながらキャンプをしている様子も書いてあった。物語の中盤から最後にかけては、カミザールも宗教的なことであるが、ほかにもカトリック、トラピスト会など宗教的なことが多くでてきた。トラピスト会の「雪の聖母」('Our Lady of the Snows')という修道院に立ち寄る様子も出てきた。途中、会った人に、スティーヴンソンが宗教を変えるよう、言われることもあった(断ったが)。

 宿がある場合もあれば、宿がなくて、キャンプをする場合もある。キャンプをして、空を見あげることや自然の描写などがいいとおもった。例をひとつあげる。スティーヴンソンが寝るとき、目を閉じた後のシーンである。(訳はkankeijowbone)

‘The wind among the trees was my lullaby. Sometimes it sounded for minutes together with a steady even rush, not rising nor abating; and again it would swell and burst like a great crashing breaker, and the trees would patter me all over with big drops from the rain of the afternoon.’ (p.147)

「木の間に吹く風は私の子守唄となった。時々それは数分間、強まったり弱まったりすることはなく、安定して、吹き付けて聞こえる音を伴うことさえあった。風はふたたび強くなり、とてつもない砕波のようにはじけ、木は午後の雨からの大きな滴とともに私に向かって一面にパタパタと音を立てていた。」

 

 

 

 この本でスティーヴンソンの辿ったルートはgr70と名付けられて、そこをハイキングしている様子のある動画もあって楽しそうだと思った。

 スタインベックもこの作品に影響を受けており、似たような題名の本の、チャーリーというプードルと旅をする「チャーリーとの旅 -アメリカを求めて」(Travels with Charley: In Search of America)という作品もある。これも読んでみたい。

 

 

 

語句

dragoon 竜騎兵

fodder 家畜の飼料、かいば

choir クワイア、聖歌隊

hedonist 快楽主義者

friar 托鉢修道士

castor ビーバー

bastinado 棍棒による殴打

tea-urn 茶壷

knoll 小山、塚

agglomeration 塊になること

treacherous 背信の、たよりにならない

cross-examine 詰問する

hearken 耳を傾ける

clamor 叫び

 

 

読んだもの

Robert Louis Stevenson, 'Travels with a donkey in the Cévennes'(Travels with a donkey in the Cévennes and other travel writingsに収録されている), Mineola: Dover Publications, 2019

サキの「スレド二・ヴァシュター」(Sredni Vashtar)について

 

 主人公はコンラディン(conradin)という10歳の少年で、医者からのこり五年も生きられないと宣言されている。コンラディンにはいとこであり保護者であるミス・デ・ロップ(Mrs. De Ropp)という人物がおり、コンラディンは彼女のことを嫌っている(だが、コンラディンはそれを隠している)。コンラディンは外にある小屋にフェレット(イタチ科の動物。スレド二・ヴァシュター(Sredni Vashtar)という。)とめんどりを飼っている。コンラディンはよく小屋に行き祈る。だが、ミス・デ・ロップはどんな天候でも小屋に行くことはコンラディンのためによくないと思い、やめさせようとし、最初にめんどりを売りさばく。つぎにミス・デ・ロップはコンラディンの部屋から小屋の鍵を取り、小屋に向かいフェレット(スレド二・ヴァシュター)に何かしようとする。コンラディンはスレド二ヴァシュターにミス・デ・ロップに死が訪れてくれるよう祈る。...

 

 

 全体的に不気味な印象であった。動画もあったので見た。スレド二・ヴァシュターとは何を意味するのか気になった。

 

 

語句

antagonism 対立

haven 安息地

lithe しなやかな

strewn ばらまかれた、'strew'(ばらまく)の過去分詞形

boon たまもの

shuffle ひきずって歩く、もぞもぞさせる

on the ground that... ...なので

Rimmon リムモン、シリアのカルト像、聖書に登場する

 

読んだもの

H.H.Munro(Saki), 'Sredni Vashtar'(The Complete Sakiより), London: Penguin Books, 1982

 

フィッツジェラルドの「頭と肩」('Head and Shoulders')を読む

 題名になっている「頭と肩」とは出てくるふたりの登場人物の事を指す。ひとりはホレス(Horace)という非凡で、父親が大学教授で、大学で哲学を学んでいる男で、頭をつかって考えるため「頭」を意味し、もう一人はマルシア(Marcia)という女で、舞台でコーラスガールをして、激しく肩を揺さぶることから「肩」を指す。

 12月に舞台があるということで友人からホレスを誘うように頼まれたマルシアは「舞台に来てほしい」ということを言うためにホレスの部屋にノック('rap')し入って、おどけつつ(たとえば口付けしてほしいなどと言って)ホレスを誘う。しかし、ホレスは楽しそうではないなどと言って、行くつもりはなかった。

 けれどもホレスは観に行くことになった。そして奇妙なことに、ホレスは楽しみ、マルシアに惹かれていき、やがて結婚する。それからマルシアは妊娠し、コーラスガールの仕事ができなくなり、文章(本)を書きはじめるようになった(頭をつかう。)。一方ホレスは学校をやめ、お金のために働くのだがその後夜中に健康が悪くなるほど本を読んでいて、それをみたマルシアが運動(体操)をするように勧め、マルシアは代わりにホレスの本を読む。ホレスは体操やブランコ乗りをし、アクロバティックに肩を揺らし、人目に留まり、ショーの仕事をもらい、やがて大きな会場でそれを披露するようになった。ふたりはそれぞれの仕事で評判を得ていく。

 題名である「頭」と「肩」に当たる人物はそれぞれ逆転していった。

 

 

 哲学者が出てきた話だった。ハーバード・スペンサー(Herbert Spencer(1820-1903))やショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer(1788-1860))など。ほかには、ホレスは椅子の名前にそれぞれ「ヒューム」(David Hume(1711-1766、)のこと)、「バークリー」(George Berkeley(1685-1753)のこと)と名付けており、その椅子に、訪問したマルシアが座って、ホレスはマルシアをヒュームと被せて(ヒュームを具現化した存在としてマルシアを)見たりする。また、哲学者以外にも、マルシアは本を書くにあたって、ホレスの読んでいたサミュエル・ピープス(Samuel Pepys(1633-1703))の日記を参考にする。

 

 

 階段を何段飛ばしていくのか、ということが書いてあったのがいいと思った。以下二つ挙げる。(引用の後ろはkankeijowboneの訳)

最初のほうのシーンでマルシアがおどけて口付けをしてほしいと言っても、ホレスが理性的であって、応じないので、マルシアが階段を降り去って行く場面-

'An instant later, as she was skimming down the last flight of stairs three at a time, she heard a voice call over the upper banister: "Oh, say--"'(p.78)

(「その後直ぐマルシアは最後の階段三段をいっぺんに降りていったとき、てすりの上の方から声が聞こえた。「ああ、おい——」」)

 

後半の方でホラサがマルシアに手紙を書いてほしいと言って、マルシアが書いた手紙をホラサが読むと言い、その後何か月か経ち、マルシアの体調は悪くなっていき、ホラサのショーが終わった後、ホラサがマルシアのもとを訪れるシーン-

'After that performance he laughed at the elevator man and dashed up the stairs to the flat five steps at a time--and then tiptoed very carefully into a quiet room.'(p.91)

(「その公演の後、ホラサはエレベーターボーイを見て笑い、階段を五段一気に駈け上がった。そしてマルシアのいる静かな部屋にそっと入った。」)

 

 上の二つはどちらも階段を飛ばしていて急いでいる。前者の文ではホラサが話が通じないと感じているから一気に三段降りたのかと思った。後者の文は早く会いたいという気持ちが五段一気に上に上がらせているのかと思った。

 

 

語句

'trapeze'-空中ブランコ

'bureau'-寝室用のタンス

'mens sana in corpore sano'-健康なる精神は健全なる身体に宿る(ラテン語)

'quod erat demonstrandum'-証明終了(ラテン語)

'usher'-案内役

'prodigy'-非凡

'byplay'-わき演技

'beatific'-至福を与える

'hippodrome'-馬術演技場

'what-cha-ma-call-it'-'what you might call it'の略、何とかいうもの、あれ

 

読んだ本 

Francis Scott Key Fitzgerald, 'Head and Shoulders'(Flappers and Philosophersに収録されている), Ney York: Charles Scribner's Sons, 1959 

馬についての話

 馬に関する話を三つ読んだ。続けてそれらについて書いていく。長い。

 

デーヴィッド・ハーバード・ローレンス(D.H.Lawrence)、「木馬の勝者」('The rocking-horse winner')

 最初はD.H.ローレンス(1885-1930)の「木馬の勝者」を読んだ。

 全体として、貧乏の家庭の息子ポール(Paul)が競馬の賭けにどんどんはまっていってしまい、その結果どうなったのか、ということがかかれている。

 家庭には二人の娘と一人の息子ポールがおり、子供たちを学校へ行かせるためにお金が必要であったが、低収入で、家庭は貧窮していた。しかし、両親ともに見栄えは気にしており、趣味にお金を使っていた。ポールと母親の仲は決していいとは言えなかった。あるとき、ポールが遊んでいると、ポールは部屋の中にある木馬から「もっとお金があるはずだ」という声を聞いた。ポールはそれで馬に乗って、「運のあるところにつれていってくれ」ということをなんどもさけんだ。ポールの叔父はポールに競馬の賭けを紹介し、また、若い庭師バセット(Bassett)と知り合いで、三人でよく競馬場へ賭けに行った。ポールの予想はよく当たり、大金を手にした。大金を手にし、それを母親に渡した後も、部屋に聞こえる不気味な「もっとお金があるはずだ」という音はなりやまなかった。

 ポールの予想は外れることもあった。それでポールは馬の賭けのことを考え続け、休むことを勧められるほどどんどん調子が悪くなっていったのだが、しかし、依然と賭けのことを考え続けた。また、ポールは部屋にある木馬に乗ればどの馬を予想すれば当たるのかが閃く気がして激しく乗り続けた。

 

 

 ポールのギャンブルにのめり込んでいく様子が怖かった。木馬から発している「もっとお金があるはずだ」という囁きも怖かった。呪われていると思った。この囁きは、ポールが大金を手にして母親にあげた後も続き(ひどくなり、蛙のような音がした。)、ポールの不安の要素の主なものだったのだと思う。ポールはその音を聞き、不安になっていった。

 

 母とポールは仲がよくない、感想として母は意固地だと思った。例えばポールに対して母も父も運がない、ということを言う。ポール自身は神が言っていたから運があるということを言うのだがそれを信じようとはしない。母は「自分は運がない」ということを思い続けていた。そしてポールは幸運の手掛かりを探そうと賭け事に熱中する。後半でもポールは「幸運であるのか」ということを気にしている。仮にもう少し母がポールが幸運であるということを認めれば、ポールが競馬にはまっていくのを和らげたと思った。

 

 ここでポールの母が言っていたいくつか似たような言葉('lucky', 'lucre', 'rich')があるので紹介する。(引用のあとはkankeijowboneの訳)

・幸運(lucky)-'It's what causes you to have money'(p.83)(幸運とはお金をもたらしてくれるものである)

・利益(lucre)-ポールが叔父が「あぶく銭、賭け事(Filthy lucre)がお金である」と言っていたということに対しての母のセリフ-''Filthy lucre does mean money,' said the mother. 'But it's lucre, not luck''(p.83)(あぶく銭(賭け事)はお金を意味するがそれは利益であり幸運ではない)

・恵まれていること(rich)(幸運(lucky)との違い)-''...If you're lucky you have money. That's why it's better to be born lucky than rich. If you're rich, you may lose your money. But if you're lucky, you will alwarys get more money.''(p.83)(「恵まれている(rich)のであればお金を失うこともあるが、幸運(lucky)であればそれはない。幸運(lucky)に生まれてくることは恵まれて(rich)生まれてくることよりもいい」)

 

 そういうふうに分けるのかと思った。気に留まった。

 

 

出てきたレースの名前や場所(wikiで調べた)

'the Lincoln races'(p.87)-ヨークシャーの3月の終わり、または4月のはじめのほうにドンカスター(Doncaster)で開催される。

'Grand National'(p.91)-エイントリ―競馬場(Aintree Racecourse、リバプール郊外)で開かれる。4月開催。

'Derby'(p.91)-もともと3歳馬の競争。エプソム競馬場(Epsom Downs Racecourse、ロンドンより27キロ南に離れたところにある)でのダービーステークス(Derby Stakes)の後にそう名付けられた。

 

 

 

ディック・フランシス(Dick Francis)、「間違いない死」('Dead Cert')(一章のみ)

 その次はディック・フランシス(1920-2010)の「間違いない死」を読んだ。寺山修司が萩本晴彦との対談でおもしろい競馬小説として挙げていたので(他にはヘミングウェイやウィリアム・サローヤン)前から気になっていた。今回読んだ本はペンギンブックスで出ている1995年あたりのペンギンブックス60周年記念の'Penguin 60s'というものだ。コンパクトで小さい。ページ数も60ページで「間違いない死」はそのうちの18ページである。第一章のみ入っていた。

 

 主人公はヨーク(Mr York)という競馬選手である。ヨークは障害物競争に参加する。メイドンヘッド(Maidenhead、イングランド南東部)競馬場が舞台。アドミラル(Admiral)という馬に乗ったビル(Bill)がヨークと同じ競争に参加する。アドミラルが勝つことが予想されていたのだが、途中、転倒してしまい、かわりに主人公のヨークが勝つことになる。怪我をしたビルは病院へ運ばれる。ヨークはなぜビルが転倒したのかは思いつかず、現場に行ってその理由を探る。

 

 今回は第一章しか読んでいないので、なぜ転落したのか、ということは本文で軽くふれているにとどまっていたが(「針金が現場に落ちていた」等)、今後さらに展開されていくのだろう。全部で二十章ほどある話である。

 

 アドミラルに乗ったビルはフェンスを飛び越えるときに転落してしまうのだが、その描写がよかった。足に注目していたり、単に自分が競馬の小説を読んでいないだけだが、そういうふうに書くのか、と思った。以下引用(そのうしろはkankeijowboneの訳)。

'Aghast, I saw the flurry of chestnut legs threshing the air as the horse pitched over in a somersault. I had a glimpse of Bill’s bright-clad figure hurtling head downwards from the highest point of his trajectory, and I heard the crash of Admiral landing upside down after him.'(p.3)

(「馬が投げ出され宙返りになり、栗色の馬の足が動揺しながら空気を打つのを私はおびえながら見た。ビルは最高点の軌道に達し、目立つ服を着た姿を見せ、頭は下方に突進していった。そして私はビルが落ちたあと、アドミラルがさかさまになりすさまじく地面に落ちた音を聞いた。」)

 

 

 

 

エドワード・モーガン・フォースター(Edward Morgan Forster)、「天国への馬車」('The Celestial Omnibus')

 E.M.フォースター(1879-1970)の「天国への馬車」も読んだ。'omnibus'というのは「総集編」という意味もあれば、ほかに「乗合馬車」や「乗合自動車」という意味もある。この話で出てきた'omnibus'は「乗合馬車」という意味で使われていた。

 

 少年(The boy)の住んでいる家はバッキンガムにある。近くに、空地を指し<天国へ>('To Heaven')と書いた看板を発見する。両親に聞くと、それはジョークのひとつであると言われた。教会の長、州会の候補者でり、図書館に莫大な量の本を寄贈していたボン氏(Mr Bons)にも聞くと、それはシェリー(Shelly)(ここはSuperSummaryというサイトを参考にするとpercy Bysshe Shelly(1792-1822、詩人)のようだ)が書いたという。

 少年は馬車があるということは作り話だと思いつつ、探し、通りに馬車があった。

 少年は馬車に乗り込んだ。運転手はトーマス・ブラウン(Sir Thomas Brown,1605-1682、著作家)である。馬車は上昇し、霧の中を走ったり、雷や虹に近づいたりした。

 少年は戻ってきて、馬車に乗っていて起きた話を家族やボン氏に話したが、信じてくれなかった。ボン氏は書物の中の人物や出来事は信じると言ったのだが、少年が実際に体験したことは信じなかった。けれどもボン氏は少年に連れられ、馬車へ向かうことになる。信じてはいないのだが。今度の馬車は、運転手が違っており、死体のような運転手であった。

 少年は前回馬車に乗ったときに出会った、セアラ・ギャンプ(sarah gamp、ディキンズのマーティン・チャルズウィット(Martin Chuzzlewit, 1843-44)に出てくるキャラクター)やトム・ジョーンズ('Tom Jones', 1749, ヘンリー・フィールディングの作品)の話をするが、ボン氏はそれをよく思っておらず、「私のような教養溢れる人物はセアラ・ギャンプやトム・ジョーンズなどで時間を無駄にせず、シェークスピアやホメロスの話をする」ということを言う。

 ボン氏は早くこの馬車から降りたがっている。少年は美しい景色が窓の外から見えるのだが、ボン氏には見えない。ボン氏の体調はどんどん悪くなっていく。

 

 ボン氏は地位のある人で、本に出てくる人物はよく知っていたのだが、どこか傲慢さを感じさせる人物であった。とくにそういうことを表すものとして以下のものがあると思った。少年とボン氏で馬車に入るとき、ドアには<'Lasciate ogni baldanza voi che entrate'>(p.54)(「このドアに入るときすべての自負を捨てろ」というような意味のようだ(SuperSummaryというサイトを参照))(イタリア語でそれぞれ'Lasciate'-「やめる、去る、離れる」、'ogni' -「あらゆる」、'baldanza'-「自信、大胆、自負」、'voi'-君」、'che entrate'-「その入り口」)とあったのだが、'baldanza'は'speranza'-「希望」の間違いではないか、ということを言う(p.54)。(-‘Lasciate ogni speranza voi che entrate’「このドアに入るときすべての希望を捨てろ」という意味のよう。SuperSummaryというサイトを参照。)ドアに書いてあった「このドアに入るときすべての自負を捨てろ」というのは地位があり、少年の体験を信じないで書物の出来事を信じるボン氏にこの言葉が向けられているふうに思えたが、ボン氏がそれは「このドアに入るときすべての希望を捨てろ」の間違いだ、ということをいうのは、少年が乗った経験のある馬車に期待せず(希望を持とうとせず)また、自負を捨てようとしないでいる様子が書かれていると思った。

 馬車の向かった先にはさまざまな人物がでてきたが、もう少しそれらについて知っていれば、もっと楽しく読めると思った。

 

結び(まとめ)

「木馬の勝者」では競馬に熱中していく少年について書かれていた。

「間違いない死」(第一章のみ)では勝つと予想されていた馬が倒れてしまい、それにはなにかわけがあるようだった。

「天国への馬車」では馬車に乗って、天国へ行く様子が書かれていた。

 

調べた単語などの一部(主に電子辞書やWeblioから)

・「木馬の勝者」('The rocking-horse winner')

'smirk'-ほくそ笑む

'They lived in style'-彼らは贅沢な暮らしをした

'pram'-乳母車

'frenzy'-興奮

'batman'-馬の世話をする人

'race-meeting'-競馬大会

'serene'-うららかな

'knack'-こつ

'drapesy'-布地屋

'iridescent'-虹色に輝く

 'trivet'-三脚台

'divulge'-漏らす

 

・「間違いない死」('Dead Cert')(一章のみ)

'steeplechase'-障害物競走

'hindquarters'-後ろ足と臀部

'harlequin'-トリックスター、道化者

'abdomen'-腹

'odds-on'-勝ち目ある

'impenetrable'-不可侵領域

'bridle'-頭部馬具

'tendon'-腱

'concussed'-激しく揺さぶった

'algebra'-代数の論文

'deduction'-差引き

'side-track'-側線

'sodden'-びしょ濡れの

'grandstand'-正面特別観覧席

'frivolous'-うわついた

 

・「天国への馬車」('The celestial Omnibus')

'breadwinner'-一家の稼ぎ手

' Belle Vista'(イタリア語)-美しい景色

'nonchalant'-平然と

'terrene'-現生の

'titular'-名だけの

'homonymous'-あいまいな

'evergreen'-常緑の

'precipice'-崖っぷち

'truancy'-無断欠席

'untrodden'-踏まれていない、未踏の

'vex'-いらだたせる

'cadaverous'-死体のような

'chariot'-戦車

'vellum'-子牛紙、上等皮紙

'sovereign'-主権者

'prim'-几帳面な

 

読んだもの

・D.H.Lawrence, The rocking-horse winner('Love among the haystacks and other stories'より), Harmondsworth: Penguin Books, 1975

・Dick Francis, Dead Cert: The first chapter('Racing classics'より), Harmondsworth: Penguin Books(Penguin 60s), 1995

・E.M.Forster, The Celestial Omnibus('Collected Short Stories'より), Harmondsworth: Penguin Books, 1967